最新記事

感染症対策

ワクチンめぐり富裕国が仁義なき争奪戦 コロナ対策で逆効果に?

2020年8月9日(日)13時29分

高まる懸念

COVAXによる資金調達計画には、世界保健機関(WHO)や「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」も共同推進者となっており、寄付を通じて支援を受ける貧困国90カ国だけでなく、英国を含む富裕国75カ国以上が関心を示している。

だがGAVIによれば、それには米国、中国、ロシアは含まれていない。

またEU関係者は先週、製薬企業との交渉を主導する欧州委員会が加盟国に対し、COVAXを通じてワクチンを購入しないよう勧告した、と述べている。

シンクタンクの外交問題評議会でグローバル医療プログラム担当ディレクターを務めるトーマス・ボリーキー氏は、「懸念している」と話す。「ワクチン供給を独占しつつある一部の国の行動は、多国間によるワクチン供給の取り決めと競合する」

「結局のところ、ワクチン製造のリソースは有限だ。拡大できるとしても限りがある」

専門家の試算によれば、現在、進められている後期治験において、複数ある有力ワクチン候補の有効性が実証されれば、効果的なワクチンを来年末までに約20億回分用意できるというのが妥当な見通しだ。

終息は2年遅れも

だがGAVIのバークレー事務局長は、ワクチンを世界各国で分け合って最もハイリスクな人々を最初に保護するのではなく、利己的な国・地域が自国・地域の住民に投与するために独占してしまえば、パンデミックは制御できなくなる可能性があるという。

「たとえば米国全体、EU全体でワクチンを1人当たり2回投与しようとすれば、約17億回分が必要になる。入手可能なワクチンが試算通りの量ならば、他国にはいくらも回らない」

少数の国、いや30ー40カ国がワクチンを入手しても150カ国以上が入手できない状況になれば、「そうした国々で感染症は猛威を振るう」とバークレー事務局長は言う。

「このウイルスは稲妻のように移動する。結局は、ノーマルに戻れない状況に陥るだろう。パンデミックを全体として抑制できない限り、商取引、観光、旅行、貿易は不可能だ」

バークレー事務局長や「ワン・キャンペーン」のスミス氏など医療専門家は、パンデミックを終息させるというのは全世界的に終息させるという意味だ、と語る。

「ワクチン配布の偏りがもたらすのは、パンデミックがあと1年続くのか2年続くのかという違いだ」とスミス氏は言う。「経済の面でも公衆衛生の面でも、その違いは非常に大きい」

(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・新たな「パンデミックウイルス」感染増加 中国研究者がブタから発見
・韓国、コロナショック下でなぜかレギンスが大ヒット 一方で「TPOをわきまえろ」と論争に


2020081118issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
楽天ブックスに飛びます

2020年8月11日/18日号(8月4日発売)は「人生を変えた55冊」特集。「自粛」の夏休みは読書のチャンス。SFから古典、ビジネス書まで、11人が価値観を揺さぶられた5冊を紹介する。加藤シゲアキ/劉慈欣/ROLAND/エディー・ジョーンズ/壇蜜/ウスビ・サコ/中満泉ほか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中