最新記事

感染症対策

新型コロナ、次の革命的療法は人工抗体「モノクローナル抗体」か

2020年8月7日(金)12時11分

世界は今、新型コロナウイルスのワクチンを待望しているところだが、次の大きな前進はがんなどの治療に広く用いられている生命工学的な抗体療法から得られるかもしれない。 写真は5月、新型コロナウイルス向け抗体を開発中の企業の米カリフォルニア州サンディエゴにある研究所で撮影(2020年 ロイター/Bing Guan)

世界は今、新型コロナウイルスのワクチンを待望しているところだが、次の大きな前進はがんなどの治療に広く用いられている生命工学的な抗体療法から得られるかもしれない。

新型コロナウイルスを特定して攻撃する「モノクローナル抗体」(特殊な細胞の複製から作り出す抗体医薬品)の開発は有力科学者らからお墨付きを得ており、米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長も、新型コロナに対する「確実性がかなり高い手法」と評価している。

ウイルスがヒトの体内に入って最初の防御を通過すると、もっと特殊な抗体反応が開始、侵入ウイルスを標的にする細胞が作られる。そうした細胞には、ウイルスを認識して封じ込め、感染の広がりを防ぐ抗体が含まれる。

科学者は新型コロナ感染からの回復に抗体が果たす役割をなおも解明中だ。しかし製薬メーカーは適切な抗体やその組み合わせが感染の進行を変えられると確信している。

リジェネロン・ファーマシューティカルズのクリストス・キラトソウス最高経営責任者(CEO)はロイターの取材に「抗体は感染を防ぐことができる」と語った。同社は2種類の抗体から成る「抗体カクテル」を実験中。2種類を使うのは、1種類だけよりもウイルスがすり抜けるのを止めやすいだろうという考え方だ。実験の有効性データは今夏の終わりか秋の初めまでに得られると見込んでいる。

米政府は6月、リジェネロンと新型コロナ抗体の4億5000万ドル分の供給契約を結んだ。同社によると、当局の承認が得られれば速やかに米工場で生産を開始できる。

米イーラリ・リリー、英アストラゼネカ、米アムジェン、英グラクソ・スミスクラインは、こうした療法の成功が証明された場合に供給を大量化するための製造資源共有計画について、米政府から承認を得ている。製薬ライバル社同士のこうした協力は異例だ。ただ、モノクローナル抗体の製造は複雑で、なおも生産設備能力は限られている。

アストラゼネカは、2種類の抗体の組み合わせの臨床試験を数週間内に始める計画としている。その一方、イーライリリーも6月に2種類の抗体候補の臨床を始めたが、同社としては1種類の投与法に重点を置いていく構えだ。

一方、体内の独自の免疫システムを活性化させるワクチンと異なり、モノクローナル抗体は効果がいずれ消える。それでも製薬メーカーは、医療従事者や高齢者など高リスクな人々への感染を一時的に防ぐには有効ではないかとしている。ワクチンが広く入手されるようになるまでのつなぎ的な療法としても使えるかもしれない。ビル・バイオテクノロジーの主任メディカル責任者、フィル・パング氏は「予防的な意味合いとしては、我々は最大半年間、有効かもしれないとみている」と語った。

モノクローナル抗体の安全性リスクは低いと考えられているが、費用は高額になる可能性がある。がんのモノクローナル抗体の場合は年間10万ドル以上かかる可能性がある。また、新型コロナウイルスが特定の抗体に耐性ができる可能性も懸念されている。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・新たな「パンデミックウイルス」感染増加 中国研究者がブタから発見
・韓国、コロナショック下でなぜかレギンスが大ヒット 一方で「TPOをわきまえろ」と論争に


2020081118issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
楽天ブックスに飛びます

2020年8月11日/18日号(8月4日発売)は「人生を変えた55冊」特集。「自粛」の夏休みは読書のチャンス。SFから古典、ビジネス書まで、11人が価値観を揺さぶられた5冊を紹介する。加藤シゲアキ/劉慈欣/ROLAND/エディー・ジョーンズ/壇蜜/ウスビ・サコ/中満泉ほか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

商船三井の今期、純利益を500億円上方修正 市場予

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米株高の流れを好感 徐々に模

ワールド

トランプ氏「BRICS通貨つくるな」、対応次第で1

ワールド

米首都の空中衝突、旅客機のブラックボックス回収 6
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中