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死刑に賛成する弁護士もいる、終身刑ではいけない理由を彼らはこう言う

2020年8月5日(水)16時35分
印南敦史(作家、書評家)


「仮釈放のない終身刑」を科せられた受刑者は、更生しても仮釈放になることはないため、更生意欲が生まれません。それゆえ受刑者に「生きて反省させて更生させる」ために「仮釈放のない終身刑」を導入することはそもそも矛盾しているといえます。
 また、「生きて償う」と言いますが、被害者の遺族の多くは「いったい何を償うのか」と首をかしげておられると思います。(67ページより)

一方、「死刑囚でも更生可能性がある」「死刑が執行されるときには、死刑囚は本当に罪を償って反省し、仏様のようになっている」というような主張もある。だが、そんなことはあり得ないように思うし、仮にそうだとしたら、それは「死刑」を宣告されたことによって、否応なしに死と向き合うことになった結果なのではないか。


「終身刑は、社会から凶悪犯罪者を隔離する面では死刑と同じですが、死刑囚は常に死と向き合わされます。そこから被害者の立場に思いを巡らせ、真の反省に至る者が、死刑囚の中にはいるのです。終身刑では、受刑者に『死』と向き合わせることができません」(美達大和著『死刑絶対肯定論 無期懲役囚の主張』新潮新書)(68~69ページより)

これはある無期懲役刑の受刑者による著作からの引用だそうだが、ここからも分かることがある。人の命を奪った殺人犯の改心と更生を促すためには、自らの死と真摯に向き合う機会が必要だということだ。すなわち、それは「死刑」である。つまり、「死刑」を「仮釈放のない終身刑」で代替することはできないということらしい。

本書の著者の一人である川上賢正弁護士は、元々死刑反対派だったそうだ。死刑制度は「国家による殺人」以外のなにものでもないと考えていたという。

だが殺人事件の犯罪被害者と関わり、彼らの悲痛な思いを聞くにつれ、考え方が徐々に変わっていったと振り返っている。


 ある日、警察から呼び出されて家族のご遺体に接する。そして、警察は殺人事件だと説明をする。そして加害者の存在を知る――。(「あとがき」より)

そのように絶望的な状況の中で、被害者が加害者に対して死刑を望むのは自然なことだという思いに至り、死刑制度の維持が必要だと考えるようになり、死刑廃止論を捨てたというのである。

だが、それは弁護士だけに当てはまる話ではないはずだ。自分の大切な人が殺人事件によって命を失うことは誰にでも起こり得るのだから、これはひとりひとりが考えなければいけない問題でもある。


死刑賛成弁護士
 犯罪被害者支援弁護士フォーラム 著
 文春新書

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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。

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