最新記事

アメリカ政治

トランプ最強の指南役、義理の息子クシュナーの頭の中

The Utility Player

2020年8月1日(土)15時20分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

コロナウイルス対策

6月半ばに話を聞いた時、クシュナーは「7月になればアメリカは元気を取り戻しているだろう」と語っていた。そう信じたかったのだろう。だが、そうはならなかった。東アジアや欧州でこそ新型コロナウイルスの感染は落ち着きつつあるが、アメリカではまだ勢いが止まらない。

しかしクシュナーは6月半ば以降、コロナ対策よりトランプ再選キャンペーンに注力しなければならない立場に置かれた。6月20日にオクラホマ州タルサで開いた選挙集会は空席が目立ち、散々な結果に終わっていたからだ。それでも各地でコロナ感染者が急増しており、そうした州の知事からは高機能マスクなどの支援を求める電話がひっきりなしに寄せられていた。対応するのが、大統領府の対策チームを実質的に仕切るクシュナーだ。

トランプがいかに義理の息子を頼りにしているか。頼られたクシュナーがどう対処してきたか。それを明らかにしたのが今回のコロナ危機だ。トランプは当初、この公衆衛生上の危機を軽くみていたが、3月半ばには想定を超える事態であることが分かってきた。そこでクシュナーは大統領執務室に側近たちを集め、まずは欧州各国からの入国を制限することに決めた。

クシュナーによれば、その手際のよさを見たトランプは彼に言ったそうだ。「ほかの仕事はいいから、(マイク・)ペンス副大統領と一緒にコロナウイルス対策に当たってくれ」と。

あいつは大統領の娘婿だから。そんな嫉妬やひがみ根性に由来する周囲の反発に、クシュナーは慣れていた。しかしコロナ危機への対応は、責任の重さに比べて地味な仕事だ。だから、たいした反発はなかったらしい。

火中の栗を拾うに等しい仕事であることは、クシュナーも承知していた。彼はこう言っている。「まるで、海岸に立って、押し寄せる津波を見ているような気分だった」

それでクシュナーはペンスの承認の下、対策の要点を3つに絞った。高機能マスクなどPPE(個人防護具)の供給確保、人工呼吸器の増産、そして検査の拡充だ。どれをとっても、アメリカはひどく立ち遅れていた。

そこでクシュナーは友人のアダム・ボーラーを仲間に引き入れた。医療機関の経営者で、トランプ政権下で公的医療保険制度の改革に当たっていた人物だ。ボーラーのつてで、医療分野の起業家ブラッド・スミスも迎えた。そうして3人の人脈を駆使して、証券会社や投資ファンドの幹部らも仲間に加えた。

本来なら連邦緊急事態管理庁(FEMA)が仕切るべき案件なのに、そこへ大学野球の2軍チームみたいな若造たちが乗り込んだことへの批判はある。しかし「クシュナー組」の介入で現場が混乱したという評価は、どうやら当たらないようだ。

指揮命令系統の乱れという話は大げさだし、それなりの人材も集まったようだ。クシュナーらが実業界で築いた人脈(もしかしたら金脈も)は、それなりに役立ったらしい。

<関連記事:トランプ姪の暴露本は予想外の面白さ──裸の王様を担ぎ上げ、甘い汁を吸う人たちの罪

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中