トランプ最強の指南役、義理の息子クシュナーの頭の中
The Utility Player
コロナウイルス対策
6月半ばに話を聞いた時、クシュナーは「7月になればアメリカは元気を取り戻しているだろう」と語っていた。そう信じたかったのだろう。だが、そうはならなかった。東アジアや欧州でこそ新型コロナウイルスの感染は落ち着きつつあるが、アメリカではまだ勢いが止まらない。
しかしクシュナーは6月半ば以降、コロナ対策よりトランプ再選キャンペーンに注力しなければならない立場に置かれた。6月20日にオクラホマ州タルサで開いた選挙集会は空席が目立ち、散々な結果に終わっていたからだ。それでも各地でコロナ感染者が急増しており、そうした州の知事からは高機能マスクなどの支援を求める電話がひっきりなしに寄せられていた。対応するのが、大統領府の対策チームを実質的に仕切るクシュナーだ。
トランプがいかに義理の息子を頼りにしているか。頼られたクシュナーがどう対処してきたか。それを明らかにしたのが今回のコロナ危機だ。トランプは当初、この公衆衛生上の危機を軽くみていたが、3月半ばには想定を超える事態であることが分かってきた。そこでクシュナーは大統領執務室に側近たちを集め、まずは欧州各国からの入国を制限することに決めた。
クシュナーによれば、その手際のよさを見たトランプは彼に言ったそうだ。「ほかの仕事はいいから、(マイク・)ペンス副大統領と一緒にコロナウイルス対策に当たってくれ」と。
あいつは大統領の娘婿だから。そんな嫉妬やひがみ根性に由来する周囲の反発に、クシュナーは慣れていた。しかしコロナ危機への対応は、責任の重さに比べて地味な仕事だ。だから、たいした反発はなかったらしい。
火中の栗を拾うに等しい仕事であることは、クシュナーも承知していた。彼はこう言っている。「まるで、海岸に立って、押し寄せる津波を見ているような気分だった」
それでクシュナーはペンスの承認の下、対策の要点を3つに絞った。高機能マスクなどPPE(個人防護具)の供給確保、人工呼吸器の増産、そして検査の拡充だ。どれをとっても、アメリカはひどく立ち遅れていた。
そこでクシュナーは友人のアダム・ボーラーを仲間に引き入れた。医療機関の経営者で、トランプ政権下で公的医療保険制度の改革に当たっていた人物だ。ボーラーのつてで、医療分野の起業家ブラッド・スミスも迎えた。そうして3人の人脈を駆使して、証券会社や投資ファンドの幹部らも仲間に加えた。
本来なら連邦緊急事態管理庁(FEMA)が仕切るべき案件なのに、そこへ大学野球の2軍チームみたいな若造たちが乗り込んだことへの批判はある。しかし「クシュナー組」の介入で現場が混乱したという評価は、どうやら当たらないようだ。
指揮命令系統の乱れという話は大げさだし、それなりの人材も集まったようだ。クシュナーらが実業界で築いた人脈(もしかしたら金脈も)は、それなりに役立ったらしい。