最新記事

台湾の力量

台湾の力量:コロナ対策の原動力はスピード感、透明性、政治への信頼

HOW TAIWAN BEAT COVID-19 WITH TRANSPARENCY AND TRUST

2020年8月3日(月)07時05分
ニック・アスピンウォール(ジャーナリスト)

magSR200802_Taiwan3.jpg

SARSの教訓から迅速に入場規制 ANN WANG-REUTERS

感染者第1号が確認された後、政府は素早く動いた。直ちに中国本土からの入国を禁じ、感染者を隔離する一方、スマートフォンを活用して感染経路を突き止め、感染者と接触した可能性のある人たち全員に警告メールを送った。民間企業にマスクの増産を要請し、工場に兵士を送り込んで、生産量を1日188万枚から2000万枚に増やした。

こうした対応の全ては、CECCが2月に作成した124の行動項目リストに含まれている。このリストを参照し、台湾の実践例に倣った国も多い。ニュージーランドは早い段階で大規模な集会を規制したし、イスラエルも台湾での成功に着目してスマホを活用し、国民の自宅待機を効率よく監視した。

感染の封じ込めに成功した台湾政府は政策の焦点を「医療外交」に移した。伝統的な友好国はもちろん、中国とのつながりが深いアジアやアフリカ、中南米の諸国にまで手を延ばしている。タンに言わせれば、こうした国際協力こそ「台湾は手助けできる」路線の本質だ。それは政府の対応だけでなく、政府と民衆の間に築かれた信頼から生まれる。台湾の成功の「根底には政府と人々が共有するSARSのトラウマがありその集合的記憶ゆえに社会が一体となって動ける」のだ。

2003年のSARS流行のとき、台湾では73人が犠牲になり、台北市内の病院が2週間にわたり封鎖される事態も起きた。その経験から、台湾の病院は毎年、パンデミックに備える訓練を行ってきた。

その記憶は民衆レベルにもしっかり刻まれていて、だからこそ手洗いの徹底やソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保、そしてマスクの着用といった要請を確実に行動に移すことが可能だった。

新型コロナウイルス対策の実施に当たって、台湾の公衆衛生当局は民衆に対し、対策の成功には民衆の協力が欠かせないことを常に強調していた。この点が大事だと、米オレゴン州立大学の紀駿輝(チー・チュンホイ)教授は指摘している。

衛生福利部長(保健相)の陳時中(チェン・シーチョン)も、台湾の成功はしっかりした政策と住民の協力、そして創造性が合わさった結果だと述べている。元副総統で疫学の専門家でもある陳建仁(チェン・チエンレン)も同意見だ。

徹底的な国民への情報提供

「政府は住民とのやりとりで隠し事をせず、とても反応が早い」と紀教授は言う。「それで結果が出れば信頼は強化される。いま台湾の人々は、他国の人々が日常生活を制限され、自宅に閉じ込められているありさまを見て、自分たちはとても幸運だったと感じている」

陳保健相は今も毎日、記者会見を開いており、記者や住民からの質問に対して冷静かつ沈着に答えるその姿勢から、台湾で最も人気のある閣僚の一人となった。「毎日の記者会見は、なんとなく聞いているだけでも自然に知識を吸収できる。だから誰もが感染症のプロ並みの情報を得られる」と、タンは言う。

【関連記事】台湾IT大臣オードリー・タンの真価、「マスクマップ」はわずか3日で開発された
【関連記事】さらば李登輝、台湾に「静かなる革命」を起こした男

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中