台湾の力量:コロナ対策の原動力はスピード感、透明性、政治への信頼
HOW TAIWAN BEAT COVID-19 WITH TRANSPARENCY AND TRUST
感染者第1号が確認された後、政府は素早く動いた。直ちに中国本土からの入国を禁じ、感染者を隔離する一方、スマートフォンを活用して感染経路を突き止め、感染者と接触した可能性のある人たち全員に警告メールを送った。民間企業にマスクの増産を要請し、工場に兵士を送り込んで、生産量を1日188万枚から2000万枚に増やした。
こうした対応の全ては、CECCが2月に作成した124の行動項目リストに含まれている。このリストを参照し、台湾の実践例に倣った国も多い。ニュージーランドは早い段階で大規模な集会を規制したし、イスラエルも台湾での成功に着目してスマホを活用し、国民の自宅待機を効率よく監視した。
感染の封じ込めに成功した台湾政府は政策の焦点を「医療外交」に移した。伝統的な友好国はもちろん、中国とのつながりが深いアジアやアフリカ、中南米の諸国にまで手を延ばしている。タンに言わせれば、こうした国際協力こそ「台湾は手助けできる」路線の本質だ。それは政府の対応だけでなく、政府と民衆の間に築かれた信頼から生まれる。台湾の成功の「根底には政府と人々が共有するSARSのトラウマがありその集合的記憶ゆえに社会が一体となって動ける」のだ。
2003年のSARS流行のとき、台湾では73人が犠牲になり、台北市内の病院が2週間にわたり封鎖される事態も起きた。その経験から、台湾の病院は毎年、パンデミックに備える訓練を行ってきた。
その記憶は民衆レベルにもしっかり刻まれていて、だからこそ手洗いの徹底やソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保、そしてマスクの着用といった要請を確実に行動に移すことが可能だった。
新型コロナウイルス対策の実施に当たって、台湾の公衆衛生当局は民衆に対し、対策の成功には民衆の協力が欠かせないことを常に強調していた。この点が大事だと、米オレゴン州立大学の紀駿輝(チー・チュンホイ)教授は指摘している。
衛生福利部長(保健相)の陳時中(チェン・シーチョン)も、台湾の成功はしっかりした政策と住民の協力、そして創造性が合わさった結果だと述べている。元副総統で疫学の専門家でもある陳建仁(チェン・チエンレン)も同意見だ。
徹底的な国民への情報提供
「政府は住民とのやりとりで隠し事をせず、とても反応が早い」と紀教授は言う。「それで結果が出れば信頼は強化される。いま台湾の人々は、他国の人々が日常生活を制限され、自宅に閉じ込められているありさまを見て、自分たちはとても幸運だったと感じている」
陳保健相は今も毎日、記者会見を開いており、記者や住民からの質問に対して冷静かつ沈着に答えるその姿勢から、台湾で最も人気のある閣僚の一人となった。「毎日の記者会見は、なんとなく聞いているだけでも自然に知識を吸収できる。だから誰もが感染症のプロ並みの情報を得られる」と、タンは言う。
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