台湾の力量:コロナ対策の原動力はスピード感、透明性、政治への信頼
HOW TAIWAN BEAT COVID-19 WITH TRANSPARENCY AND TRUST
問題のウイルスに懸念を抱いた台湾の保健当局は、その夜には武漢からの渡航者全員の検査を開始した。そして1月11日に行われる総統選挙に備えて中央感染症指揮センター(CECC)を設立。感染拡大の阻止に向けて省庁間の協力を円滑にする態勢を整えた。
だから、1月21日に感染者第1号が見つかった時点で準備は万端だった。早めに手を打っていたから、世界中に感染が拡大しても台湾は平穏な社会の営みを保つことができた。ロックダウン(都市封鎖)も休校もせず、飲食店や居酒屋の休業を強制することもなかった。
それだけではない。台湾はこれを機に国際舞台でかつてないほどの存在感を発揮した。これは今後、台湾の主権をめぐる戦いで生き残るためのカギになるかもしれない。
「私たちの不屈の精神は、それが最大の難関でも乗り越えるために結束するという意欲に由来する」。蔡はそう書いている。「何よりも世界の皆さんと共有したいと私が願うのは、難題を克服しようと共に戦う人々の能力は無限だという認識です」
寄稿を締めくくったのは、「台湾は手助けできる」というスローガン。実際、台湾は諸外国に大量のマスクや防護用品を寄付してきた。その実績と自負があればこそ、5月のWHO年次総会への参加を求めもした。
取材に応じた唐鳳(タン・フォン、オードリー・タン)デジタル担当相は、自身のノートパソコンに貼ってあるそのスローガンを指さして、笑顔で言った。「このとおりになったでしょう」
台湾は見事なウイルスの感染拡大封じ込めで国際社会の称賛を得た。その対策には強制的な検疫・隔離も含まれていた。しかし一方で、行政の透明性を維持し、住民には冷静なメッセージを送り、信頼関係を構築してきた。
台湾の有権者は民主主義への関心が高い。蔡は1月の総統選で再選を果たし、投票率は74.9%もの高水準を記録した。香港の混乱を横目に、蔡は一貫して主権の維持を強く訴え、台湾が香港と同じ運命をたどることはないと約束して支持を集めた。
実際、蔡政権は有権者とのコミュニケーションを大切にしてきた。昨年には人気も実績もあるベテランの蘇貞昌(スー・チェンチャン)を行政院長(首相)に起用する一方、2014年の学生運動、いわゆる「ヒマワリ運動」を率いた活動家らを与党・民進党の主要ポストに据えてもいる。
いずれも1996年の民主化(総統公選制の導入)以来、民主主義の理想を高く掲げてきた民衆の熱い思いに応える人事だった。世界に冠たる医療制度を築き上げ、統治のデジタル化を推進できたのも、政府と有権者の信頼関係があればこそ。今回の新型コロナウイルス対策では、その威力が存分に発揮された。
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