最新記事

ファーウェイ

中国はファーウェイ5Gで通信傍受する、英米の歴史からそれは明らか

STATE WIRETAPS GO BACK A LONG WAY

2020年8月6日(木)14時15分
カルダー・ウォルトン(ハーバード大学ケネディ政治学大学院研究員)

ファーウェイは国益増進のためなら有害な活動もしかねない ALY SONG-REUTERS

<エニグマ解読からNSAの電話情報収集まで──その機会があればいつだって熱心に他国の通信情報を盗み取ってきた国家の歴史を教訓とするならば、中国政府がファーウェイを悪用しないはずがない>

国内で整備する第5世代(5G)移動通信システムから中国の通信機器大手の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)を排除する──イギリス政府は7月半ばに、そう発表した。アメリカ政府の科す制裁措置を考慮するとファーウェイ製の通信機器は使用できないと、英国家サイバーセキュリティーセンター(NCSC)が結論を下したとされている。

表向きの理屈はさておき、本当にファーウェイの機器が安全保障上の脅威をもたらすのか否かは真剣に検討する必要がある。なにしろNCSCも最近までは、5Gネットワークの「周辺」部分に同社製品を使っても「中核」部分に使わない限り問題ないと主張していたからだ。

NCSCを管轄する英政府通信本部(GCHQ)は、ファーウェイがインターネットの高速通信網に参入した当初から、そのリスクをひそかに調べていた。そして幸か不幸か、現在に至るまで中国政府がファーウェイ製品を悪用してサイバー攻撃を仕掛けた証拠はない。

だが証拠の不在は、必ずしも不正行為の不在の証明とはならない。国益や安全保障を理由に、国家が自国の民間企業を動かして通信の秘密を侵し、機密情報を収集しようとするのは今に始まったことではない。どこの国も、そうした行為の加害者であり被害者でもある。

その事実は長く秘められてきた。しかし近年における情報公開の法制化とその厳格な施行により、昔の、とんでもない秘密の数々が明るみに出てきた。イギリスもアメリカもひそかに通信会社と契約を結び、国益のためと称し、通信機器に暗号解読機能を忍び込ませていたらしい。

これが歴史の教訓であれば、結論は明白だ。ファーウェイ製品で構築した5Gネットワークを使って中国政府が他国の情報を収集することなどあり得ないと考えるのは幼過ぎるし、あまりにも甘い。

ずっと昔から、権力者は敵の通信を傍受して利用することに熱心だった。昔は封筒に湯気を当て、そっと開封していた。今はインターネット上の膨大な交信データを、人工知能で解析している。

海底ケーブルの切断作戦

時代を画したのは、1902年のグリエルモ・マルコーニだ。イタリア人の彼はこの年、初めて大西洋横断の無線通信を成功させた。同じ年、イギリスの著名作家ラドヤード・キプリングが「無線」と題する短編を発表した。モールス信号による通信が傍受されるという話で、当時はSF的な夢物語に思えたが、数年後には現実になっていた。

12年後、第1次大戦が始まるとイギリスは緊急事態法制として国土防衛法を制定し、郵便と電報の大掛かりな傍受を許した。

【関連記事】米中スパイ戦争──在ヒューストン中国総領事館の煙は「21世紀新冷戦の象徴」
【関連記事】アメリカ猛攻──ファーウェイ排除は成功するか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中