最新記事

ファーウェイ

中国はファーウェイ5Gで通信傍受する、英米の歴史からそれは明らか

STATE WIRETAPS GO BACK A LONG WAY

2020年8月6日(木)14時15分
カルダー・ウォルトン(ハーバード大学ケネディ政治学大学院研究員)

magf200806_HUAWEI3.jpg

第1次大戦後に米政府の暗号解読部門を率いたヤードリー U.S. NATIONAL SECURITY AGENCY

1914年8月の開戦時には、ドイツが敷設した海底ケーブルをひそかに切断した。海底ケーブルは当時の先端技術で、大英帝国はその広大な範図を長い海底ケーブルで結んでいた。そして、他国が同じことをするのをひそかに妨害した。

「戦時検閲」と称し、ドイツがイギリスの海底ケーブルを通じて流した情報を全て傍受し、解読できるようにもした。あの大戦中、英国本土には180人の検閲官がいて毎日5万件の通信に目を通していた。海外120カ所の拠点にも400人の検閲官がいた。

大西洋を横断して英米両国を結ぶ海底ケーブルも傍受の対象だった。その起点は、イングランド南西部のコーンウォール。そこにはGCHQの施設がある。100年後にエドワード・スノーデンが盗んだのも、そこに集められていた情報だ。

当時のイギリスは、アメリカを含む中立国の通信も傍受していた。1917年には海軍省の暗号解読部門「40号室」が、いわゆる「ツィンメルマン電報」を解読した。ドイツ帝国のアルトゥール・ツィンメルマン外相がメキシコに言い寄り、反米同盟を結ぼうとしていることを示す通信だった。

その電報は、あえてアメリカの通信網を介して送信されたが、イギリスはそれも傍受し、解読した。そしてアメリカ政府に伝えたのだが、通信傍受の事実は伏せ、スパイが命懸けで入手した情報を装った。

ツィンメルマン電報は1917年3月に公表され、アメリカが第1次大戦に英仏側の同盟国として参戦するきっかけとなった。一通の電報の傍受と暗号解読がアメリカ政府を動かし、参戦を決断させた。通信傍受の歴史に残る大きな成果だった。

第1次大戦後、アメリカ政府も暗号解読部門「ブラックチェンバー」を創設した。責任者を務めたハーバート・ヤードリーは外国との間で交わされる電報の複写を入手するため、ウェスタンユニオンをはじめとする米通信各社と秘密裏かつ非合法の契約を結んだ。毎朝、首都ワシントンにある電信会社の事務所に職員が出向き、電報文の写しをブラックチェンバーに持ち帰り、夕方までに返却する約束だった。ブラックチェンバーは「全てを見る。全てを聞く。感度は抜群で、どんな小さな声も聞き漏らさない」。ヤードリーは後に、そう述べている。

だが、そうはいかなかった。アメリカ政府が心変わりしたからだ。盗聴は卑劣な行為で、膨大な労力を費やす価値はないと考えるようになり、盗聴への関心を失ってしまった。

1929年に大統領になったハーバート・フーバーは、ヘンリー・スティムソンを国務長官に起用した。スティムソンは、公務に対して高い道徳的基準を要求することで知られており、ブラックチェンバーとは対立する運命にあった。

ブラックチェンバーの活動を知ったスティムソンは、すぐに部門を閉鎖し、紳士は他人の手紙を読むものではないと言い放った。

この決定の結果、アメリカは1930年代に暗号化された通信を傍受できず、戦術的かつ戦略的な脅威に直面した。一方、アメリカと敵対する外国政府は、アメリカ人の通信を傍受することにそのような紳士的な自制心を発揮しなかった。

【関連記事】米中スパイ戦争──在ヒューストン中国総領事館の煙は「21世紀新冷戦の象徴」
【関連記事】アメリカ猛攻──ファーウェイ排除は成功するか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、イラン最高指導者との会談に前向き

ビジネス

トランプ氏「習主席から電話」、関税交渉3-4週間ほ

ビジネス

中国で高まるHV人気、EVしのぐ伸び 長距離モデル

ワールド

国連の食糧・難民支援機関、資金不足で大幅人員削減へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 7
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 8
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中