最新記事

中朝関係

「感染症で死ぬ前に餓死する」対中貿易が途絶えた北朝鮮で悪化する人道危機

Virus Border Closure Pains North Korea

2020年7月30日(木)18時45分
ガブリエラ・ベルナル(朝鮮半島情勢アナリスト)

中朝国境に架かる中朝友誼橋(左)と朝鮮戦争中に破壊された鴨緑江断橋 CHINA PHOTOS/GETTY IMAGES

<金正恩はコロナ対策強化を指示したが食料と医薬品の不足が国民を直撃>

中国湖北省武漢での新型コロナウイルス発生を受け、北朝鮮が中国との国境を封鎖したのは今年1月末。対中貿易の激減で北朝鮮の経済は壊滅寸前に追い込まれている。

中朝貿易は6月にも再開すると見込まれていたが、国境封鎖は今も続き、北朝鮮は深刻な物資不足に陥っている。

北朝鮮国内からの情報によれば、封鎖解除の延期を決めたのは北朝鮮側とみられる。中国では最近、遼寧省など東北部で新たな感染者が報告されている。北朝鮮は国境地帯での感染再燃が国内に飛び火するのを警戒したのだろう。

金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の最近の動きもそうした見方を裏付ける。金委員長が議長を務めた7月2日の政治局拡大会議では、主に新型コロナウイルス対策が話し合われた。金は周辺国で再び感染者が増えている状況から警戒を緩めてはならないと強調、ウイルスの流入を防ぐため今後も半年間は強固な厳戒態勢を維持するよう指示した。北朝鮮当局はコロナ対策を最重要とは言わないまでも、重要な政策課題に据えたとみていい。

だが厳重な防疫措置は、北朝鮮の人々を新型コロナウイルスから守る以上に物資不足で締め上げる結果を招いた。中朝貿易は今年3、4月に前年同期比で9割も減少。北朝鮮経済は目下、史上最悪レベルの苦境に陥っている。

北朝鮮に対する国連の制裁が大幅に拡大された2016年以降、中朝貿易は増加し続け、中国は北朝鮮の対外貿易の95%を占めるまでになった。そのため制裁違反の密輸品は別として、北朝鮮の人々の生活は中国から流入する物品に大きく依存してきた。

しかも、ここ数年で中国は北朝鮮の最大の輸出先にもなった。国連の制裁で北朝鮮が輸出できる品目は大幅に制限されているが、中朝の当局者は制裁回避に知恵を絞り、密接な貿易関係を維持してきた。例えば北朝鮮は制裁対象に含まれない腕時計、かつら、付けまつ毛などを大量に中国に輸出。こうした品目では貿易額はたかが知れているが、それでも北朝鮮は対中輸出で貴重な外貨を確保してきた。

病院に薬の製造を命令

それ以上に重要なのは食料の安定的な確保だ。中国の貿易統計によれば、北朝鮮向けの食料輸出は昨年史上最高を記録した。昨年初め北朝鮮の農業生産が大幅に低下したと伝えられたが、食料品の価格が比較的安定していたのは中国の大量輸出のおかげだろう。

【関連記事】「大した問題でもないのにやり過ぎ」北朝鮮幹部、金与正への不満吐露
【関連記事】中国で性奴隷にされる脱北女性

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メキシコ大統領、強制送還移民受け入れの用意 トラン

ビジネス

Temuの中国PDD、第3四半期は売上高と利益が予

ビジネス

10月全国消費者物価(除く生鮮)は前年比+2.3%

ワールド

ノルウェーGDP、第3四半期は前期比+0.5% 予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中