コロナ禍の韓国で勢いづくベーシック・インカム導入議論
South Korea Mulls Basic Income Post-COVID
コロナ対策の災害支給金をきっかけに、韓国国民も政治家も一気に前向きになった MA-NO/ISTOCK
<パンデミックで急速に高まった生活不安──最低所得保障の試みが地方で盛んに行われてきた韓国で全国的な本格実施に向けた動きが加速している>
ユニバーサル・ベーシック・インカム(最低所得保障、UBI)の概念は実にシンプル。最低限の生活を送れるだけの金額を、全国民一律に、何の制限も設けずに支給するというものだ。
左派は、これによって人々が貧困からはい上がり生活の質が向上すると考える。右派は、国の社会保障負担が軽くなり個人の選択肢が広がると見なしている。
近年、UBIは一層の注目を集めている。経済格差が広がり、労働市場では無人化・自動化が進んでいるためだろう。スイスでは2016年、UBIの導入について国民投票が行われ、否決された。フィンランドでは2年間の小規模な実証実験が終わったばかりだが、効果は明らかにならなかった。今のところ、国レベルでこの政策が実施されている例はない。
しかし、コロナ禍がUBI推進の新たな契機になるかもしれない。多くの国が新型コロナウイルス対策として、緊急時のUBIとも言える特別給付金を国民に支給している。特に韓国では、UBIの実現につながりそうな要素が重なっている。
韓国もコロナ禍の中で災害支援金を支給した。いくつかの地方自治体が独自給付に踏み切り、韓国政府も3月末には収入が下位70%までの世帯に緊急災害支援金を支給すると発表した。
次期大統領選の争点に
この発表は4月15日の総選挙を控えた時期だったこともあり、大きな議論を呼んだ。この時期、緊急時のUBIに対する国民の支持は急激に高まった。3月初めに42.6%だった支持率は4月末に65.5%に上昇。保守系の最大野党「未来統合党」の代表までが全世帯への給付を主張した。こうした動きを受けて、政府は所得制限を撤回し、国民全員への支給を決めた。
これを機に、韓国の国民も政治家もUBIに対して一気に前向きになったようだ。コロナ後の経済政策は景気回復だけでなく、従来からの構造的問題に取り組むものでなければならない。既に韓国政府は、デジタル化の加速や地球温暖化防止策の推進などを目標にした「韓国版ニューディール政策」を発表した。
最近の韓国政治は分裂状態が進むばかりで、あらゆる問題で意見が対立する。しかしUBIに対してはどの政党も関心があり、2022年大統領選を含む一連の選挙で大きな論点になると考えている。
左派の与党「共に民主党」は、以前からUBIに積極的だ。次期大統領の有力候補とされる李洛淵(イ・ナギョン)前首相は、自分はUBIの趣旨をよく理解しており、「さらなる議論を歓迎する」と語った。蘇秉勲(ソ・ビョンフン)議員も、次期国会のためにUBI法案を準備中という。