最新記事

ユニバーサル・ベーシック・インカム

コロナ禍の韓国で勢いづくベーシック・インカム導入議論

South Korea Mulls Basic Income Post-COVID

2020年7月16日(木)18時00分
ドンウ・キム(カナダ・アジア太平洋財団研究員)

コロナ対策の災害支給金をきっかけに、韓国国民も政治家も一気に前向きになった MA-NO/ISTOCK

<パンデミックで急速に高まった生活不安──最低所得保障の試みが地方で盛んに行われてきた韓国で全国的な本格実施に向けた動きが加速している>

ユニバーサル・ベーシック・インカム(最低所得保障、UBI)の概念は実にシンプル。最低限の生活を送れるだけの金額を、全国民一律に、何の制限も設けずに支給するというものだ。

左派は、これによって人々が貧困からはい上がり生活の質が向上すると考える。右派は、国の社会保障負担が軽くなり個人の選択肢が広がると見なしている。

近年、UBIは一層の注目を集めている。経済格差が広がり、労働市場では無人化・自動化が進んでいるためだろう。スイスでは2016年、UBIの導入について国民投票が行われ、否決された。フィンランドでは2年間の小規模な実証実験が終わったばかりだが、効果は明らかにならなかった。今のところ、国レベルでこの政策が実施されている例はない。

しかし、コロナ禍がUBI推進の新たな契機になるかもしれない。多くの国が新型コロナウイルス対策として、緊急時のUBIとも言える特別給付金を国民に支給している。特に韓国では、UBIの実現につながりそうな要素が重なっている。

韓国もコロナ禍の中で災害支援金を支給した。いくつかの地方自治体が独自給付に踏み切り、韓国政府も3月末には収入が下位70%までの世帯に緊急災害支援金を支給すると発表した。

次期大統領選の争点に

この発表は4月15日の総選挙を控えた時期だったこともあり、大きな議論を呼んだ。この時期、緊急時のUBIに対する国民の支持は急激に高まった。3月初めに42.6%だった支持率は4月末に65.5%に上昇。保守系の最大野党「未来統合党」の代表までが全世帯への給付を主張した。こうした動きを受けて、政府は所得制限を撤回し、国民全員への支給を決めた。

これを機に、韓国の国民も政治家もUBIに対して一気に前向きになったようだ。コロナ後の経済政策は景気回復だけでなく、従来からの構造的問題に取り組むものでなければならない。既に韓国政府は、デジタル化の加速や地球温暖化防止策の推進などを目標にした「韓国版ニューディール政策」を発表した。

最近の韓国政治は分裂状態が進むばかりで、あらゆる問題で意見が対立する。しかしUBIに対してはどの政党も関心があり、2022年大統領選を含む一連の選挙で大きな論点になると考えている。

左派の与党「共に民主党」は、以前からUBIに積極的だ。次期大統領の有力候補とされる李洛淵(イ・ナギョン)前首相は、自分はUBIの趣旨をよく理解しており、「さらなる議論を歓迎する」と語った。蘇秉勲(ソ・ビョンフン)議員も、次期国会のためにUBI法案を準備中という。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ガザ停戦でエジプトの役割を称賛 和平実

ワールド

トランプ氏、ゼレンスキー氏と17日会談 ウ当局者も

ワールド

トランプ氏、イランと取引に応じる用意 「テロ放棄が

ビジネス

JPモルガン、最大100億ドル投資へ 米安保に不可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中