最新記事

Black Lives Matter

日本人が知らない、アメリカ黒人社会がいま望んでいること

WHERE DO WE GO FROM HERE?

2020年7月15日(水)17時05分
ウェスリー・ラウリー(ジャーナリスト、元ワシントン・ポスト警察司法担当記者)

白人議員が嫌うある言葉

そもそも、警察が住民の精神疾患や学校のパトロール、麻薬や飲酒の問題、暴力を伴わない争いなどに首を突っ込むのは間違いだという意見もある。警察に割り当てられる多額の資金(自治体の予算で最大の支出項目となっている場合もある)を、もっと別の地域サービスに振り向けるべきだという主張である。

だが、いくら活動家が今こそ大改革の時だ、アメリカの悲惨な歴史がいかにこの国の不平等を生み出しているかを反省すべきだ、と訴えても、政治家の反応は鈍い。

共和党・民主党の有力議員が現在提示している法案は、法制化された場合は間違いなく警察の管理と透明性の強化につながるだろうが、活動家が唱えている警察の大改革には程遠い内容だ。

共和党唯一の黒人上院議員で、党内の警察改革の議論を主導しているティム・スコットは、フロイドが警官に首を膝で押さえ込まれて死んでいく動画に「アメリカの精神の根幹は破壊された」と感じ、「本当にもうたくさんだ」と思った。

数年前までは警察改革を求めるいかなる呼び掛けも警察官全員に対する攻撃と見なしてきた共和党にとっては、黒人のスコットに一定の権限を与えたこと自体が大きな進歩だろう。それでも、スコットは言葉を慎重に選んで話さねばならない。

共和党の白人議員たちは今も、アメリカの刑事司法は「構造的に」黒人に不利にできているという考えを頭から拒絶する。そのためスコットは構造的な不公平を裏付ける自身の体験をいくつも語りながら、「構造的」という言葉だけは使わなかった。

magSR20200715wheredowego-4.jpg

警察改革を訴える共和党唯一の黒人上院議員ティム・スコット CAROLINE BREHMAN-CQ-ROLL CALL, INC/GETTY IMAGES

警官に交通違反の切符を切られるのは自分にとっても日常茶飯事だ、とスコットは言った。そして「黒人のくせに車を運転している」から警官の目につく、それ以外の理由は考えられないと付け加えた。

議会に初登院して以来、議事堂の敷地内で警官に呼び止められたことは少なくとも4度。議員になって数年後、貧困地区に住む祖父を訪ねる途中で警察に車を止められたこともある。たちまち、少なくとも4人の警官に取り囲まれたという。

「不審者扱いされて魂を傷つけられる。自分のことを卑しい存在と受け止め、無力感といら立ちを覚える」とスコットから聞いて、それこそまさに「構造的」な差別ではないかと尋ねると、こう切り返された。「あなた方のように言葉の定義をめぐって論争する贅沢は、私にはない」

スコットと他の議員たちの間で意見が一致するのは、たとえどんな法案を可決できたとしても問題の根絶には遠く及ばないという点のみだ。「憎悪の顕在化を食い止めることを目指しているが、それが見えてこない」とスコットは言う。

「末端の部分をいじくり回しているだけだ」と言うジョナサン・スミスは、オバマ政権時代に司法省高官として公民権問題を担当し、マイケル・ブラウン射殺に関してファーガソン警察署の調査を取り仕切った。「みんな何かをしたいと思うから、いわば低い枝になる果実に手を伸ばす」とスミスは言う。しかし「それでは意味のある解決にならない。何かをしたという気分になるだけだ」。

【関連記事】ブラック・パンサーの敗北がBLM運動に突き付ける教訓

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中