【対論】イスラエルの「ヨルダン川西岸併合」は当然の権利か、危険すぎる暴挙か
THE DEBATE : WEST BANK QUESTION
だが、イスラエル国民にとってより切実な問題点がある。
トランプ米大統領の中東和平案は西岸のユダヤ人入植地などをイスラエル領の一部とするが、それが現実になれば、イスラエルと西岸の間の境界線は総延長約1370キロに及ぶ。イスラエルが1967年に西岸を占領する前の境界線であるグリーン・ライン(約320キロ)の4倍以上、現在の事実上の境界である分離壁(700キロ以上)の2倍近くに達する計算だ。
イスラエル国防軍(IDF)は大幅に延びた境界線をパトロールするだけでなく、トランプ案が併合の対象外とする地区にある15の飛び地も警護しなければならない。これらの飛び地は本質的に敵地内の警備対象だ。それが何を意味するかは、西岸のヘブロンに住むユダヤ人入植者の警護のため、IDFが入植者1人当たり1人以上の兵士を配置している現状から推察できるだろう。
オスロ合意は西岸を「A」「B」「C」の3地域に区分しているが、イスラエルがC地域を併合した場合、状況は飛躍的に複雑さを増す。C地域併合案はイスラエル関係者の間で最も支持が高く、ナフタリ・ベネット前国防相も支持派の1人だ。
西岸の6割を構成するC地域には、パレスチナ自治政府の権限下にあるA・B地域の飛び地169カ所が含まれる。C地域を併合すれば、イスラエルは西岸内だけで新たに169の境界を抱えることになり、現行の治安体制を維持するなら、それぞれに分離壁を建設しなければならない。その建設費用は75億ドル。さらに維持費として年間15億ドルを要する見込みだ。もちろん、各境界に大勢のIDF兵士を送り込む必要もある。
利益は既に手にしている
一部併合案はいずれも、パレスチナ自治政府が西岸に住むパレスチナ人の事実上の統治機関として機能し続けるという条件の上に成り立つ。しかし、一部併合は必然的に自治政府を弱体化させる。自治政府は崩壊するか、イスラエルとの過去の合意を全面放棄することになりかねない。
その結果は西岸全域を併合した場合と同じだ。パレスチナ支配地域に位置する都市や町でIDFが治安維持を担う安全保障上の悪夢が訪れ、新たに年間200億ドルを費やしてパレスチナ住民250万人の生活インフラ維持に責任を持ち、彼らにイスラエル市民権を認めるか、その基本的な政治的権利や市民権を否定するかという選択に直面することになる。
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