最新記事

中東和平

【対論】イスラエルの「ヨルダン川西岸併合」は当然の権利か、危険すぎる暴挙か

THE DEBATE : WEST BANK QUESTION

2020年7月3日(金)14時45分
キャロライン・グリック(イスラエル・ハヨム紙コラムニスト)、マイケル・J・コプロウ(イスラエル政策フォーラム政策担当責任者)

イスラエル兵に対して西岸併合を抗議するパレスチナの人たち(6月19日) Mussa Qawasma-REUTERS

<トランプが発表した新中東和平案を受けて、イスラエル新政権はヨルダン川西岸の一部併合に乗り出すが......。賛成・反対の両論者が説くそれぞれの正当性とは>

パレスチナこそ平和共存の拒絶者だ

キャロライン・グリック(イスラエル・ハヨム紙コラムニスト)

イスラエルは今後数カ月以内に、ジュデア・サマリア(ヨルダン川西岸地区)の30%に自国の民法と行政権を適用するとみられている。ドナルド・トランプ米大統領が発表した中東和平案では、この地域はパレスチナとの中東和平交渉の最終合意後もイスラエルに残るとされている。

しかし、いわゆる「専門家」の多くは事実を歪曲し、イスラエルを非難している。彼らが懸念しているのは、「イスラエルによる併合」だ。

実際には、イスラエルはジュデア・サマリアのいかなる部分も「併合」することはできない。併合とは、国家が他国の領土に主権を押し付ける行為だ。イスラエルは1948年5月14日の独立宣言により、既にジュデア・サマリアの主権を有している。この宣言とイギリスの委任統治終了により、イスラエルは国際連盟が定めた委任統治下の全領土の主権を持つ唯一無二の国家となった。

この地域にイスラエルの法律を適用しようとする計画をめぐる言説の第2の問題は、それがイスラエルにとって重要な理由と、トランプがイスラエルの主権を和平案に盛り込んだ理由を無視していることだ。

イスラエルの視点から見れば、この計画は法の支配と地域住民の市民権を大幅に向上させるものだ。イスラエルは1994年(パレスチナ自治開始)以来、「ヨルダン川西岸」の統治をパレスチナ自治政府と分け合い、一部を軍政下に置いてきた。イスラエル国防軍(IDF)が統治するジュデア・サマリアの市町村には、50万人近くのイスラエル人と10万人以上のパレスチナ人が暮らしている。

イスラエルの民法は、現在この地域に適用されている軍法よりもはるかに自由だ。これによりIDFは交通規制や建築許可などの問題に責任を負わずに済むようになる。

トランプと前任者の違い

トランプの中東和平案については、何十年も失敗続きの和平プロセスの根底にあった思い違いの存在を指摘したい。イスラエルはパレスチナ側が仕掛けた戦争の責任を負っており、和平のためにはパレスチナ側に土地を譲渡する必要があるというものだ。真実は逆だ。

イスラエルは1937年(イギリス調査団によるパレスチナ分割提案)以来、一貫してパレスチナ人と土地を共有することに同意してきたが、パレスチナ側は拒否し続けた。2000年以降も、ジュデア・サマリアのほぼ全域の譲渡と聖地エルサレムの再分割を含む3度の和平提案を行ったが、パレスチナ側は全て拒否した。

パレスチナ側は2000年、和平提案への応答としてテロ戦争を開始し、2000人のイスラエル人を殺害した。2008年の和平提案に対しては、政治的戦争をエスカレートさせた。

【関連記事】トランプ「世紀の中東和平案」──パレスチナが拒絶する3つの理由
【関連記事】トランプ中東和平案「世紀の取引」に抵抗しているのは誰か

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中