最新記事

中東和平

【対論】イスラエルの「ヨルダン川西岸併合」は当然の権利か、危険すぎる暴挙か

THE DEBATE : WEST BANK QUESTION

2020年7月3日(金)14時45分
キャロライン・グリック(イスラエル・ハヨム紙コラムニスト)、マイケル・J・コプロウ(イスラエル政策フォーラム政策担当責任者)

magw200702_WestBank.jpg

1月の米イスラエル首脳会談に伴って発表された中東和平案は波紋を呼んだ KEVIN LAMARQUE-REUTERS


トランプ以前の仲介者たちは、パレスチナにイスラエルとの平和共存を受け入れさせようとしなかった。代わりに国際社会の非難や支持撤回を心配せずに、イスラエルへの攻撃を継続・強化できると思い込ませた。

パレスチナ側はユダヤ人国家との平和共存に合意する前提として、全ユダヤ人のジュデア・サマリアと東エルサレムからの追放を要求した。オバマ前米政権を含む欧米諸国の政府がそれを支持したことが、和平の実現を不可能にしてきたのだ。

トランプの和平案は、成功の可能性がある初のアメリカによる提案だ。それ以前の案の中核にあった病的な(そして反ユダヤ主義的な)思い違いを拒否しているからだ。トランプ案は、民族の故郷におけるユダヤ人の自決と独立の権利をパレスチナ人が拒否し続けてきたのはイスラエルのせいだという考えを否定している。そしてイスラエルにはジュデア・サマリアを含む全ての民族の故郷において主権を持つ法的・民族的権利があるという事実を受け入れている。

イスラエルの法律をジュデア・サマリアに適用すれば、急拡大しているスンニ派アラブ諸国との関係に支障が出ると、自称専門家は主張する。だが心配は要らない。パレスチナの指導者は連日、アラブ諸国の指導者にトランプ案への支持と良好な対イスラエル関係への興味を捨てさせることができないと嘆いている。

サウジアラビアのジャーナリスト、アブドゥル・ハミド・アル・ガビンはBBCにこう語った。「わが国の世論はイスラエルとの関係正常化を支持しているだけでなく、その多くがパレスチナに背を向けた」

リスク対効果でみる併合の危険な結末

マイケル・J・コプロウ(イスラエル政策フォーラム政策担当責任者)

イスラエルによるヨルダン川西岸併合はリスクばかり膨大で、報酬がほとんど、あるいは全く存在しない行動の典型だ。併合支持論は勝利を求める心に訴え掛けるが、この勝利は究極的には象徴的なものにすぎず、それを手にするために数々の現実的な問題を生み出すことになる。

併合反対派の間で最も一般的な論点は、外交面の影響に関するものだ。併合に踏み切れば、国連や欧州各国から非難を浴びるのはほぼ確実。場合によってはスンニ派アラブ諸国との対立再燃、1994年に調印されたイスラエル・ヨルダン平和条約の履行停止に発展する可能性がある。

さらに西岸併合は、独立と主権をめぐって、イスラエルとパレスチナ双方の理想を尊重する形で中東問題を解決する道を不可避的に遠ざける。

【関連記事】トランプ「世紀の中東和平案」──パレスチナが拒絶する3つの理由
【関連記事】トランプ中東和平案「世紀の取引」に抵抗しているのは誰か

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:ドバイ「黄金の街」、金価格高騰で宝飾品需

ワールド

アングル:ミャンマー特殊詐欺拠点、衛星通信利用で「

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中