新型コロナ「院内感染」の重い代償 医療の最前線で続く苦闘と挑戦
疑似症でも積極的に受け入れ
同病院では、他の多くの医療機関に先駆け、コロナ患者の収容や治療に積極的に取り組んできた。川崎市にある聖マリアンナ医科大学病院とともに、横浜港に停泊していたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の感染者も真っ先に受け入れている。
同船でクラスターが発生したとの知らせを受けた桝井医師は、政府の財政支援が出ないコロナ疑似症も含め、乗客の収容を上層部に強く進言した。
不安に駆られている人たちの「行き場がなくなってしまう」と考えたからだ。上層部も「地域の中核病院として当然の役割」(佐野文明副院長)との判断に至り、同船から5人が同病院に入院した。
しかし、4月に入ると、市中感染の患者も増えはじめ、同病院職員の仕事は一気に増加。院内感染が起きた後は、桝井医師も含め、医師・看護師ら医療スタッフの7割にあたる600人近くが自宅待機を余儀なくされた。
一方、院内感染を起こした他の病院と同様に、同病院にも地元の人たちから抗議の電話が相次いだり、病院スタッフの家族が、学校や近所で心ない言葉に傷つけられるケースが報告されたという。
医療者としてのプライド
コロナ患者への対応に二の足を踏む病院がある一方、積極的に受け入れた病院が院内感染という重い代償に見舞われる。そこに矛盾や葛藤はないのか。
佐野副院長は「医療者としての矜持(きょうじ)」が難局に立ち向かう支えになっていた、と言う。「なぜ、うちの病院だけこんなに苦労しなければならないのかという思いはある。しかし、我々は当然のこととして、こういうことをやっているんだというプライドもある」
同副院長は動揺する病院スタッフに対し、「今回の院内感染を教訓に、以前にも増して地域から信頼され、全ての職員が満足して働ける西部病院を作っていこう」というメッセージを出した。
「30年以上の歴史の中で多くの職員によって築かれてきた地域における信頼が、新型コロナウイルスの院内感染により一瞬のうちに失われてしまいました」。
今も病院の廊下に張り出されている同メッセージは「本当に残念であり悔しさを拭いきれません」と続き、診療再開を待ちわびている多くの患者と地域に対し、必要な医療を提供する義務を訴えている。
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