光を99%吸収 最も黒い深海魚が発見される
真に黒い魚...... ミツマタヤリウオ Idiacanthus antrostomas (Karen Osborn/Smithsonian)
<米デューク大学などの研究者は、光を吸収することで、身を隠し、天敵から効率よく逃れようとする18種39匹の深海魚を調べた......>
水深200メートル以上の深海は、ほとんどの光が海水に遮られ、暗闇が広がっている。このような環境下で生息する深海生物には、体内で光を生成して放射する「生物発光」や、深海に唯一届く青色光を吸収して異なる色の光を放出する「生物蛍光」などによって、暗闇を照らして獲物を探したり、これを惹き付けたりする種がある一方、これらの光を吸収することで、身を隠し、天敵から効率よく逃れようとする種もある。
光の反射率0.044%のユメアンコウ属
米デューク大学と国立自然史博物館(NMNH)の共同研究チームは、メキシコ湾とカリフォルニア州モントレー湾で採集した18種39匹の深海魚を対象に、分光計を用いて魚皮の反射率を測定した。2020年7月16日に学術雑誌「カレント・バイオロジー」で発表された研究論文によると、そのうち16種の反射率は0.5%未満で、魚皮に当たった光の99.5%以上を吸収していることがわかった。
最も反射率が低かったのは0.044%のユメアンコウ属で、反射率が0.06%から0.4%程度の「最も黒いチョウ」よりも低く、反射率が0.31%から0.05%の「最も黒い鳥」といわれるフウチョウ科と同等であった。
研究チームでは、これらの「真っ黒な深海魚」の皮を電子顕微鏡で観察した。魚皮には、光を吸収する色素「メラニン」を含む細胞小器官「メラソーム」がある。
小さなパール状のメラソームが含まれる一般的な黒い皮と異なり、真っ黒な深海魚の皮では、大きく、ミントタブレット「チックタック」に似た形状のメラソームがびっしりと密集し、連続したシート状に形成されている。研究チームがコンピュータモデルを用いて、魚皮のメラソームの大きさや形をシミュレーションした結果、真っ黒な深海魚のメラソームは光を吸収するうえで最適な形状であることも明らかとなった。
真っ黒な物質をより安価に製造する手法として応用できる?
研究チームでは、このような深海魚の光の吸収のメカニズムが、顕微鏡やカメラソーラーパネルなど、他の分野にも応用できるのではないかとみている。たとえば、真っ黒な物質をより安価に製造する手法として応用できる可能性がある。
研究論文の責任著者で国立自然史博物館の動物学者カレン・オズボーン博士は「深海魚の皮のメカニズムに倣い、色素の大きさや形を最適化することで、より安価で丈夫な光吸収素材を実現できるだろう」と述べている。