反米同盟の再構築に向けて、中南米の左派政権に接近するイランを注視せよ
Iran Trying to Get Back into Latin America
しかしベネズエラのマドゥロ政権が崩壊したらどうか。イランの計画は完全に狂う。だからイランとしては、なんとしてもベネズエラの石油産業を再建する必要がある。
新規投資はおろか設備の維持もままならない現状で、ベネズエラはかつての3分の1しか原油を採掘できていないし、その精製能力はゼロに等しい。だから売れず、国庫は空っぽだ。電力も食糧も足りず、国民は飢え、医療制度は崩壊している。
もともと石油産業は歳入の90%以上を占めていた。その大半が途絶える日が来れば、遠からずベネズエラは食糧や医薬品(どちらも大半を輸入に依存している)を買えなくなるだろう。そうなればイランは、苦労して築いてきた中南米での橋頭堡を失うことになる。最悪の事態だ。
もしもマドゥロ政権が倒れたら、次はキューバとニカラグアの独裁政権が危ない。そしてイランは西半球でアメリカに対抗する手だてを失うだろう。それは困るから、何としてもベネズエラの石油産業を再生し、マドゥロ政権の延命を助けたい。
だがアメリカの経済制裁下でイランの経済は縮小しており、できることは限られている。運がよければロシアや中国の助太刀を得られるかもしれないが、それにも限度がある(両国ともベネズエラへの投資では過去に痛い思いをしている)。
万策尽きれば、イランは革命防衛隊の精鋭を派遣するなどしてベネズエラ国内の治安を強引に立て直す代わりに、その代償としてマドゥロ政権の金庫に眠る金塊をごっそり持ち帰るしかない。
新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、イランが中南米での存在感を再び増そうとする動きに、果たしてアメリカ政府や現地の民主勢力は有効に対応できるだろうか。答えは分からないが、この動きに目をつぶってはいけない。
<本誌2020年6月30日号掲載>
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