最新記事

イラン外交

反米同盟の再構築に向けて、中南米の左派政権に接近するイランを注視せよ

Iran Trying to Get Back into Latin America

2020年6月25日(木)18時30分
スティーブン・ジョンソン(共和党系シンクタンクIRI顧問)

magf200625_LatinAmerica3.jpg

ベネズエラは依然混乱の中にある(写真は19年7月の独立記念日の軍事パレード) MIRAFLORES PALACE-REUTERS

しかしベネズエラのマドゥロ政権が崩壊したらどうか。イランの計画は完全に狂う。だからイランとしては、なんとしてもベネズエラの石油産業を再建する必要がある。

新規投資はおろか設備の維持もままならない現状で、ベネズエラはかつての3分の1しか原油を採掘できていないし、その精製能力はゼロに等しい。だから売れず、国庫は空っぽだ。電力も食糧も足りず、国民は飢え、医療制度は崩壊している。

もともと石油産業は歳入の90%以上を占めていた。その大半が途絶える日が来れば、遠からずベネズエラは食糧や医薬品(どちらも大半を輸入に依存している)を買えなくなるだろう。そうなればイランは、苦労して築いてきた中南米での橋頭堡を失うことになる。最悪の事態だ。

もしもマドゥロ政権が倒れたら、次はキューバとニカラグアの独裁政権が危ない。そしてイランは西半球でアメリカに対抗する手だてを失うだろう。それは困るから、何としてもベネズエラの石油産業を再生し、マドゥロ政権の延命を助けたい。

だがアメリカの経済制裁下でイランの経済は縮小しており、できることは限られている。運がよければロシアや中国の助太刀を得られるかもしれないが、それにも限度がある(両国ともベネズエラへの投資では過去に痛い思いをしている)。

万策尽きれば、イランは革命防衛隊の精鋭を派遣するなどしてベネズエラ国内の治安を強引に立て直す代わりに、その代償としてマドゥロ政権の金庫に眠る金塊をごっそり持ち帰るしかない。

新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、イランが中南米での存在感を再び増そうとする動きに、果たしてアメリカ政府や現地の民主勢力は有効に対応できるだろうか。答えは分からないが、この動きに目をつぶってはいけない。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2020年6月30日号掲載>

【話題の記事】
自撮りヌードでイランを挑発するキム・カーダシアン
自殺かリンチか、差別に怒るアメリカで木に吊るされた黒人の遺体発見が相次ぐ
異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開
地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

20200630issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月30日号(6月23日発売)は「中国マスク外交」特集。アメリカの隙を突いて世界で影響力を拡大。コロナ危機で焼け太りする中国の勝算と誤算は? 世界秩序の転換点になるのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中