最新記事

イラン外交

反米同盟の再構築に向けて、中南米の左派政権に接近するイランを注視せよ

Iran Trying to Get Back into Latin America

2020年6月25日(木)18時30分
スティーブン・ジョンソン(共和党系シンクタンクIRI顧問)

magf200625_LatinAmerica2.jpg

蜜月関係にあったアハマディネジャドとチャベス CARLOS GARCIA RAWILINS-REUTERS

他の中南米諸国との関係も悪化していた。リチウム資源の豊富なボリビアはイランとの共同採掘プロジェクトを破棄し、ドイツや中国をパートナーに選んだ。イランの資金で創立した軍人養成学校も、モラレス辞任後には「再編」された。

エクアドルでも、銀行業務における協力関係や合弁事業、発電所の建設や軍事協力などが止まった。その背景にはアメリカの対イラン制裁強化や、エクアドルの現政権が親米路線に舵を切ったことがある。中米のニカラグアはどうか。現職のダニエル・オルテガ大統領は根っからの反米派だが、あいにく昔の莫大な借金が残っているため、イランとしてもこれ以上の支援は難しい。そして懸命の努力にもかかわらず、中南米で(イランの国教である)イスラム教シーア派の信者は増えていない。

しかし、まだイランが中南米での足場を失ったわけではない。

キューバとは長年、経済や科学技術面で親密な協力関係がある。ボリビアの左派勢力とも関係が続いている。モラレス前政権与党の大統領候補ルイス・アルセは、中南米諸国で広く視聴されているイラン系のスペイン語放送局「ヒスパンTV」と組んで、今の暫定政府を激しく誹謗中傷している。

イランの手先でレバノンを拠点とするシーア派組織ヒズボラは1990年代に、アルゼンチンとブラジル、パラグアイの国境地帯で麻薬の密輸に関与し、テロ活動の資金を稼いでいた。この間の国際的な掃討作戦で一定の打撃は被ったはずだが、ヒズボラも負けてはいない。

なぜかベネズエラ政府は大勢のレバノン人やシリア人(ヒズボラの構成員多数を含むとされる)に居住証明書を発行し、彼らが中南米諸国を自由に行き来できるようにした。この証明書発行に関与したのが、現石油相で当時ベネズエラ政府の入国管理局ナンバー2だったタレク・エルアイサミ。ニューヨーク・タイムズ紙の報道によれば、エルアイサミとその父親はヒズボラの資金・人員調達に深く関与していたとされる。

支援するだけの価値がある

かつてのイランの軍事面から産業面に及ぶ広範な存在感に比べたら、これくらいの関係は脆弱に見えるかもしれない。それでも中南米諸国で民衆レベルの左傾化が進む今の状況では、イランの手先が人々の反米感情に火を付け、地元の親米勢力への反感をあおることは容易だ。

<参考記事>最恐テロリストのソレイマニを「イランの英雄」と報じるメディアの無知

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、国民向け演説で実績強調 支持率低迷の中

ワールド

ドイツ予算委、500億ユーロ超の防衛契約承認 過去

ビジネス

「空飛ぶタクシー」の米ジョビ―、生産能力倍増へ 

ビジネス

ドイツ経済、26年は国内主導の回復に転換へ=IMK
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中