中国の太平洋進出の行方を握る小さな島国の選挙
China Could Be in Reach of Hawaii After Monday’s Election in Kiribati
初めて北京を訪問したキリバスのマーマウ大統領(2020年1月6日) Jason Lee-REUTERS
<昨年、台湾と断交して中国とサプライズ国交回復をした南太平洋のキリバス。中台のどちらを取るかは今度の選挙の最大の争点だ。もし中国なら、太平洋でアメリカとぶつかる>
南太平洋に浮かぶ島国、キリバスで22日、大統領選挙が行われた。親中派の現職ターネス・マーマウと、台湾との国交回復を訴える野党候補のバヌエラ・ベリナの一騎打ちで、中国の太平洋進出に大きな影響を与える選挙として注目を集めていた。キリバスは人口11万人の小国だが、その排他的経済水域は広大だ。
中国にとっては何より、キリバスの東端にあるクリスマス島に進出の足場を築けるかどうかがかかっている。クリスマス島は世界最大級のサンゴ礁の島で、面積は約400平方キロ。ほんの2000キロも北上すれば、アメリカ太平洋軍が本拠を置くハワイのホノルルがある。クリスマス島に建設中の港湾設備は表向き、観光向けとされているが、中国軍の艦艇が利用することも可能だと米軍は神経をとがらせている。
台湾にとっては、国交回復が実現すれば非常に大きな勝利だ。キリバスは昨年、台湾と断交して中国と国交を樹立。これにより台湾を主権国家として承認している国は世界15カ国になった。
にもかかわらず、選挙結果の重要性は中国にとって台湾以上に大きいと、ローウィー研究所(オーストラリア)のナターシャ・カサムは指摘する。結果にかかわらず、台湾と国交のある国々にとってキリバスは、「中国へのくら替えがもたらす政治的代償」の大きさを示す反面教師になっているからだとカサムは言う。
寝耳に水だった中国へのくら替え
昨年9月の台湾との断交に関する発表は、マーマウ大統領の与党関係者にとっても驚きだった。事実、キリバスのテブロロ・シト国連大使兼駐米大使(元大統領)は、国連事務総長のオフィスで台湾が国連主催の会議に出席できるよう働きかけを行っていた時にこのニュースを聞いたという。キリバスが台湾と外交関係を結んだのは2003年のこと。マーマウも2016年の大統領選挙では、台湾との関係維持を公約に掲げて当選した。
この突然のくら替えは、キリバス国内でも評判が悪かった。抗議デモが行われ、人々は台湾の旗を掲げ、「台湾大好き、中国は大嫌い、欲しいのは平和だ」と叫んだ。民意不在の決定だとして野党指導者のティタブ・タバネは政府を批判した。
この動きは、党首だったベリナを初めとする一部の与党議員の造反も招いた。これにより、4月の総選挙では与党はかつての安定多数を失い、過半数を下回った。
キリバス政府関係者などへの取材からは、マーマウの決断にはいくつかの理由があったことが伺える。
まず第1に、今世紀末には1メートルくらい上昇すると見られている海面水位の問題がある。前政権は数十年のうちに島々が水没してしまうと考えていたのに対し、マーマウ政権は海水面の上昇に合わせて島も隆起するという学説を信奉。そして貧困対策として、野心的な開発計画に乗りだしたのだ。振興の目玉はクリスマス島を中心にした観光業とマグロ漁業だ。
<参考記事>台湾が太平洋の諸島国キリバスと断交 外交関係残る国はわずか15カ国に
<参考記事>南洋の小国ツバル、中国に反旗 中華企業の人工島建設を拒絶、親台湾姿勢を堅持