独メルケル首相が選んだ対コロナ国際協調 トランプの内向き姿勢と一線
科学者メルケル氏
量子化学の博士号を持つ科学者であるメルケル氏は、かねてからパンデミックのリスクを懸念していた。首相に近い関係者によれば、2014年、メルケル氏とヘルゲ・ブラウン独首相府長官は、西アフリカにおけるエボラ封じ込めに向けた取り組みに密接に関わったという。その後、この種の危機への対応に向けてWHOを強化するため、米国、ノルウェーなどとも協力している。
新型コロナウイルスが欧州を襲ったとき、最初に感染が拡大したのはイタリアとフランスだった。「ドイツはウイルス襲来に不意を突かれたわけではない」とブラウン長官は言う。「準備を整えることができた」
ドイツ国内における新型コロナウイルス対策に向けて、メルケル氏は自らの行動を、国内16州の首長の利害・関心に合わせて調整しなければならなかった。ドイツの連邦制の下では、公衆衛生上の危機におけるほぼすべての責任(及び権限)は州・都市のレベルに委ねられているからだ。
誰もが気にしたのは経済への影響だった。中国はドイツにとって最大の貿易相手国であり、ドイツ統計局のデータによれば、両国間のモノの貿易は、2019年で総額2060億ユーロ(約25兆円)相当に達している。
官民で備え
メルケル氏の武漢訪問は、同行した20数人の企業関係者が新型コロナウイルスの潜在的な脅威を理解するのに役立ったと、その1人であるシーメンス社のジョー・ケーザー最高経営責任者(CEO)は語る。
ケーザー氏によれば、1月12日にベルリンの本社ビル最上階で行われた企業経営者・政治家による会合の際、早くもこの問題が話題になっていたという。「気持ちの上では準備ができていた。米国や他の欧州諸国に比べ、ドイツは中国との取引が盛んという背景もある」と、ケーザー氏は言う。
1月22日、つまり武漢が完全に封鎖される前日、メルケル氏は中国の習近平国家主席と電話で会談し、ドイツが欧州連合(EU)理事会の議長国になる件、そして貿易問題について協議した。
数日後、バイエルン州に本拠を置く企業で、ドイツ国内初の新型コロナウイルス患者が発生した。その企業は武漢にも事業所があり、メルケル氏が武漢訪問の際に訪れていた。自動車部品メーカーのベバスト・グループは、出張で訪れていた中国人社員が新型コロナウイルス陽性と診断され、全面閉鎖された。メルケル氏は武漢工場のオープニングセレモニーに出席。首相はベバストの感染者数やその経路について気にしていたという。
2月、メルケル氏はベルリンを訪問した中国の王毅外相と非公式に会っている。メルケル氏に近い関係者によれば、王外相はメルケル氏に中国が取った対策を伝えたという。ドイツは中国に、防護具やガウン、消毒剤を送った。ドイツ政府は中国とのこうした対話を続けている。
一方、米国では感染拡大が深刻化し、連邦政府の対応が批判を浴びる中で、トランプ大統領は新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼び、新たな対中関税の導入を示唆するなど、中国政府に対する非難を強めていった。
3月上旬、イタリアでは新型コロナウイルス患者の爆発的増加により医療機関が危機に陥り、全国的なロックダウンに追い込まれた。その隣国ドイツでは感染拡大のペースが緩やかで、思い切った行動に向けて国内のコンセンサスが得られていなかった。
ドイツの国内メディアは、保健相や首相府長官に任せきりで、ウイルスに関する態度表明が遅いとメルケル首相を批判した。関係者によると、各州・都市の首長の間でも、どれだけ本格的な対応をとるべきか意見が割れていた。東部の各州は、他に比べて厳しい対策を望んでいた。
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