独メルケル首相が選んだ対コロナ国際協調 トランプの内向き姿勢と一線
中国武漢市を訪れたメルケル独首相。毛沢東が泳いだ揚子江の橋の上で車列を止め、写真を撮った。2019年9月、武漢市で撮影(2020年 ロイター/Andreas Rinke)
昨年9月、中国・武漢市内を移動していたドイツのメルケル首相は、揚子江(長江)にかかる橋に差し掛かったところで車列を止めさせた。メルケル氏はそこで、革命の指導者・毛沢東が人民に向けて披露したパフォーマンスの話を聞きたかった。
車を降りたメルケル氏は橋の上でポーズを取り、写真を撮らせた。1966年、毛沢東はこの場所で毎年恒例の水泳行事に参加し、自らの健在ぶりとリーダーシップを象徴的に誇示した。
メルケル氏にとっては単なる記念撮影だった。この地がまもなく、世界で40万人以上の死者を出すパンデミック(世界的な大流行)の震源地となるとは思ってもみなかった。
生きた武漢訪問の経験
メルケル首相に近い関係者3人がロイターに語ったところでは、武漢を訪れた経験は、メルケル政権が新型コロナウイルスに対応する上で役立ったという。
武漢は、新型コロナウイルスの人間への感染の場となった可能性のある露天市場が知られているものの、西側諸国の多くの人にとっては縁遠い場所だ。だがメルケル氏は、活気に満ちた産業の重要拠点である武漢と、そこを走る主要な幹線道路を直接目にしていた。
メルケル氏に近い関係者の言葉によれば、1100万人が暮らす大都市が自己隔離に追い込まれ、機能を完全に停止するほどの疾病なら、本当に深刻であるに違いない、と同氏は考えたという。
メルケル首相は、英国のジョンソン首相や米国のトランプ大統領などと異なり、迅速なロックダウン(都市封鎖)と広範囲の検査実施を支持した。特にアジア以外の地域において、ドイツが他の多くの国に比べ新型コロナウイルスによる死亡率を低く抑えられているのは、ロックダウンと検査の徹底という2つの要素が大きかったという評価が疫学専門家の間では広がっている。
ロイターの集計によれば、新型コロナウイルスによる死者は、米国の11万人以上、英国の4万人以上に対し、ドイツでは約9000人である。対人口比で見れば、ドイツの犠牲者は米国の3分の1、英国の6分の1だ。
国際協調かナショナリズムか
ロイターはドイツ企業の経営者や州・都市の首長、首相に近い関係者を取材した。そこからは、ドイツがパンデミックにいかに素早く対応したかが見えてきた。さらに、多くの国が自国第一主義に走り、感染源となった中国を非難しがちになる中で、連携を重視するメルケル首相の国際協調の姿勢が浮かび上がってきた。
トランプ大統領は当初中国の対応を称賛していたが、パンデミックの進行に伴い態度を変え、世界保健機関(WHO)が中国政府から不当な圧力を受けているとして、WHOからの脱退を表明している。
ドイツも短期的には国内重視に舵を切り、医療用品の輸出禁止措置をとったが、その後転換した。メルケル氏はWHO改革の必要性については賛同しているものの、ワクチン開発に取り組む国際連携プロジェクトについては明確に支持している。
「米独のアプローチの違いは鮮明だ」と語るのは、米国と欧州の連携を推進する米国のシンクタンク、ジャーマン・マーシャル・ファンドのトーマス・クライネブロックホフ副総裁。「ナショナリズムと国際協調主義の差が現われている」
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