最新記事

米中新冷戦2020

限界超えた米中「新冷戦」、コロナ後の和解は考えられない

‘THE ERA OF HOPE IS OVER’

2020年6月15日(月)06時55分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

magSR200615_ColdWars3.jpg

IBMのサイバーセキュリティー専門機関 LUKE MACGREGOR-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

アメリカとの経済摩擦の根底にあるのは、量子コンピューターや人工知能(AI)をはじめとするさまざまな技術分野で優位に立とうとする中国の野心だ。しかし一方で、こうした技術は軍事的にも大きな意味を持つ。

1990年代を迎えて、湾岸戦争におけるアメリカの電撃的な勝利に衝撃を受けて以来、中国軍は差し迫った戦略的目標(例えば台湾)を念頭に置いた戦闘能力の構築を進めるとともに、軍事技術面での能力を磨いてきた。いつの日かアメリカを追い抜くために。

「その日」は近づいているのかもしれない。量子コンピューターがいい例だ。戦争のほぼあらゆる側面をデジタルネットワークが支えている時代には「量子が全てを支配する」と、新米国安全保障センターのエルサ・カニア上級研究員は言う。

サイバー戦においては、敵のネットワークを攪乱する能力を維持するとともに自軍のネットワークを敵から守る能力を備える必要がある。量子ネットワークはサイバースパイの被害を非常に受けにくいが、カニアは「(中国の)量子コンピューター能力は将来的にアメリカのサイバー能力を凌駕する可能性がある」とみている。

また中国は、アメリカが誇るステルス技術でも歯が立たないような、量子技術に基づくレーダーシステムの研究開発を進めている。「情報時代の戦争におけるアメリカの技術的優位、情報機関や衛星、通信ネットワークの安全性やステルス技術の土台が、こうした破壊力のある技術によって崩される可能性も否めない」と、カニアは言う。

量子テクノロジー開発への注力は、従来の中国の特徴だった「非対称的」な軍事アプローチよりも「はるかに大きな影響をもたらし得るかもしれない」とカニアは指摘する。だからこそ、中国の量子コンピューター研究の父と呼ばれる潘建偉(パン・チエンウェイ)は、中国が目指しているのは「量子覇権」だと述べたのだ。

アメリカの安全保障関係者の間で広く読まれている本がある。デービッド・キルカランの『竜と蛇──非西側諸国はいかに西側との戦い方を学んだか』だ。キルカランはオーストラリア軍の元将校で、イラク駐留米軍の司令官だったデービッド・ペトレアスの特別顧問を務めた経歴を持つ。

キルカランはこう説く。「重要な技術分野において、敵はわれわれに追い付いているか追い越している。もしくは戦争の概念を、われわれの伝統的なアプローチを行使し得る狭い範囲を超えて広げている。敵は(時代の変化に)順応しており、同じように順応しなければわれわれの没落は時間の問題だ」

中国との地政学的な対立の最も大きな特徴は、相手が経済大国で先進国とも途上国とも深くつながっているという点だ。これに対し旧ソ連は、通商は東側諸国との間に限られ、経済的な孤立が目立っていた。また中国は「中国製造2025」という国家目標の下、量子コンピューターやAIにとどまらず、バイオテクノロジーや通信技術、グリーンエネルギーといった幅広い分野で優位に立つことを目指している。

強まるデカップリング論

現在、アメリカをはじめとする世界の国々は問題を抱えている。新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、防護具や医薬品の供給網を中国に置くことの危険性が明らかになったのだ。もし中国が医薬品やその原材料の輸出を禁止したなら、アメリカの医療機関はすぐに機能しなくなるだろうと、『中国への対処法』の著者ローズマリー・ギブソンは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中