最新記事

米中新冷戦2020

限界超えた米中「新冷戦」、コロナ後の和解は考えられない

‘THE ERA OF HOPE IS OVER’

2020年6月15日(月)06時55分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

magSR200615_ColdWars2.jpg

米中貿易協議「第1段階」の署名式で演説するトランプ米大統領(1月) ZACH GIBSON-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

民主党の大統領候補指名が確実なジョー・バイデン前副大統領は、トランプほどむやみに中国脅威論を振りかざすことはない。だがバイデンの外交政策顧問も、中国に対して厳しい姿勢を取っていく流れは変わらないだろうと言う。

ついに始まった冷戦2.0

2013年3月に習が国家主席に就任して以来、中国政府は100万人以上のイスラム教徒を「再教育キャンプ」に送り込み、国民監視のシステムを構築し、反体制派をことごとく弾圧してきた。さらにこの「統治モデル」を、必要な技術と共に権威主義体制の途上国に売り込んできた。

こうした事実に目をつぶる政治家は「民主党にも共和党にもいない」と、バイデンのある顧問は言う。「中国もいずれ『普通の国』になると希望を抱く時代は終わった。まともな人間なら、誰も否定しない」

政治家だけではない。ピュー・リサーチセンターの調査によると、今やアメリカ人の66%が中国に対して否定的な印象を持っている。中国でも、官製メディアや政府がコントロールするインターネットにより、ナショナリズムと反米感情が高まっている。その結果、世界最強の2国があらゆる領域で競い合っている。

その1つが軍事領域だ。アメリカと中国は南シナ海とサイバースペースでつばぜり合いを演じ、21世紀の重要技術で優位を確立する競争でも火花を散らしている。このためアメリカの新旧の政策立案者やチャイナ・ハンド(主に国務省の中国通の外交官)の間では、「冷戦2.0」の到来を認める見方が広がっている。

小学生時代にソ連の核攻撃を想定した避難訓練を経験した世代にとって、中国との新冷戦は米ソ冷戦とは大きく異なるものに感じられるだろう。「われわれは新たな、長い冷戦に突入しようとしているのかもしれない」と、チャイナ・ハンドの1人であるジョセフ・ボスコは語る。「それは前回の冷戦が楽だったと思えるものになるかもしれない」

核の優位より非対称の優位

アメリカの政策立案者たちは今、この新しい冷戦の形と、それに勝利する方法を探っている。

米中冷戦と米ソ冷戦の大きな違いの1つは、軍事面にある。中国の軍事費は、アメリカよりもはるかに少ないが、急ピッチで増えてきた。米戦略国際問題研究所(CSIS)によると、中国の2001年の軍事費は500億ドルだったが、2019年には2400億ドルまで膨らんだ(アメリカは6330億ドルだった)。

米ソの緊張は、核兵器を中心とする軍備拡張競争と切っても切り離せなかったが、中国は核の優位ではなく、最新技術を駆使した非対称の優位を確立しようとしている。

中国は既に「空母キラー」の異名を取る極超音速ミサイルを手に入れている。低高度で飛び、レーダーで捕捉しにくいこのミサイルは、太平洋上にいる米空母の中国本土接近を阻止できる。これは中国が米軍による陸と空からの攻撃を阻止する戦略「接近阻止・領域拒否(A2AD)」で大きな役割を果たすだろう。

仮に中国が台湾を武力で制圧しても、極超音速ミサイルがあれば、米空母は台湾の応援に駆け付けることができなくなる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾道ミサイル発射と米当局者 ウクライ

ワールド

南ア中銀、0.25%利下げ決定 世界経済厳しく見通

ワールド

米、ICCのイスラエル首相らへの逮捕状を「根本的に

ビジネス

ユーロ圏消費者信頼感指数、11月はマイナス13.7
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中