最新記事

米中新冷戦2020

限界超えた米中「新冷戦」、コロナ後の和解は考えられない

‘THE ERA OF HOPE IS OVER’

2020年6月15日(月)06時55分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

magSR200615_ColdWars4.jpg

米企業が開発した高周波通信用半導体ウェハー VICTOR J. BLUE-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

将来、多くの産業を支配しようとする中国のあからさまな野心は、中国市場に魅せられて多額の投資を行った世界各国の多国籍企業にとっては厄介な問題だ。中国の急速な技術的進歩が今後も続くなら、アメリカなどの諸外国の多国籍企業はそのうち、中国市場から完全に追い出されてしまうだろう。

「中国製造2025とは要するに、アメリカ企業を追い払い、アメリカ企業が売っているあらゆる価値ある製品をわが物にするということだ」と、『中国、通商および権力──西側の経済的働き掛けはなぜ失敗したか』の著者であるスチュワート・パターソンは言う。

トランプが課した追加関税と中国の野心を前に、アメリカの多国籍企業やアメリカの政策立案に関わる人々はある問いを胸に抱くようになった。アメリカは経済的に中国と距離を置くべきなのではないか?

そこに新型コロナウイルスの感染拡大と中国の対応が追い打ちをかけた。トランプの貿易戦争は経済的「デカップリング(切り離し)」へのゆっくりとした動きのきっかけをつくった。つまりそれほど高度な技術を必要としない利幅の小さい製品を扱う産業では、高関税を嫌って生産拠点を中国から移す動きが出ているのだ。繊維製品や靴、家具などを製造する企業においては中国離れの動きが特に目立つ。

パンデミック前とは大違いだ。在中国・米国商工会議所が中国で事業を行うアメリカ企業を対象に昨年10月に行った調査では、66%がデカップリングは不可能だと答えていた。ところが最近の調査では、デカップリングは不可能だと答えた企業の割合は44%に下落している。

トランプの顧問らによれば、再選されたあかつきにトランプは医薬品や医療機器以外の業界にも生産をアメリカに戻せと、何らかの形で圧力をかける可能性が高いという。実際にどんな形を取るかはまだ分からないが、側近たちは日本の例が参考になると考えている。日本政府は先頃、サプライチェーンの国内回帰を支援するため、総額2200億円の補助金を補正予算に組み込んだ。

アメリカ国内で中国に対する否定的な見方が強まるなか、企業経営者たちは厳しい選択を迫られている。パターソンの言葉を借りれば「敵と商売をしているとみられたいか否か」ということだ。

答えはさほど簡単ではない。多くの米企業は中国との付き合いを減らしたくないと考えている。何年もかけ、多額の投資をして築いたサプライチェーンを失いたくないのだ。

例えば、アメリカが今も中国に技術的な優位を保つ半導体産業。中国市場を手放せば、米半導体メーカーは世界のシェアを約18%失い、合計で売り上げが推定37%減ることになる。売り上げが減れば、研究開発にしわ寄せがいく。米企業は過去10年間に外国勢の2倍を上回る3120億ドルを研究開発に投じ、それにより先端技術で世界をリードしてきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

26年ブラジル大統領選、ボルソナロ氏長男が「出馬へ

ワールド

中国軍機、空自戦闘機にレーダー照射 太平洋上で空母

ビジネス

アングル:AI導入でも揺らがぬ仕事を、学位より配管

ワールド

アングル:シンガポールの中国人富裕層に変化、「見せ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中