限界超えた米中「新冷戦」、コロナ後の和解は考えられない
‘THE ERA OF HOPE IS OVER’
ただ、米中デカップリングのコストはしばしば過大評価されていると、パターソンは指摘する。彼の試算によれば、米企業が中国市場で得ている利益は全体の約2%にすぎず、その大半は製造・販売とも中国で行っている事業で生まれている。仮に中国市場を失っても、その損失は「誤差の範囲内」に収まると、パターソンはみる。
とはいえ、例えば建設機械大手のキャタピラーは中国で30の工場を操業し、年間売り上げの10%を中国で稼いでいる。こうした企業は米中関係が史上最悪レベルに冷え込んでも、中国から撤退しないだろう。同じことは、中国全土で4300店以上を展開するスターバックスや、中国で年間100億ドル超を売り上げるウォルマートにも言える。これらの企業は中国が盗むような重要技術を持っていないから、中国で営業を続けても特に問題はない。
問題は電気自動車(EV)大手のテスラのような企業だ。同社の先進的な技術は何としても守らなければならないが、同社は上海工場でEVを製造しており、産業スパイの格好の標的になる。
そこでデカップリングよりも賢明な施策として、米シンクタンク・ハドソン研究所の上級研究員ジョン・リーは、社会的距離ならぬ「経済的距離」を置く戦略を提案する。「重要な技術分野で中国が優位に立つことを防ぐ」ためにカギを握るのは先進国の市場への中国の参入を制限することだと、リーは言う。「アメリカ、EU、東アジアへの参入が制限され、こうした地域からのインプットがなくなれば、(中国の計画達成は)はるかに難しくなる」
それには同盟国との協調が必要になるが、トランプ政権は同盟国と強力なタッグを組んでこなかった。その点はバイデンが大統領になれば変わるかもしれない。
同盟国との共同戦線がカギに
パンデミックが始まる前から、EUや日本などの対中感情は悪化していた。カナダもそうだ。米政府、EUと共同戦線を張れば、中国との通商交渉により強気で臨めたはずだと、カナダの元高官は言う。
それを妨げたのは?
「アメリカは『安全保障上の脅威』を理由にカナダの鉄鋼輸出を制限した。同じNATOの加盟国に対して、その扱いはないだろう!」
バイデンの顧問らも、中国に対抗する共同戦線を築くために同盟国とより緊密に調整を行いたいと考えている。バイデン政権が発足したら、通商政策で真っ先に取り組むのは、オバマ前政権が推進した環太平洋諸国の貿易協定TPPの練り直しだろう。新たなTPP交渉は、より露骨に中国を排除したアメリカと同盟国との自由貿易交渉になりそうだ。