「切り離してはならない」米中デカップリングに第2次大戦の教訓
THE GREAT DECOUPLING
ただし、パンデミックの影響がすぐに過ぎ去り、ドナルド・トランプとその保護主義的な「アメリカ・ファースト」政策が11月の米大統領選で敗れ去った場合、中国とのデカップリング論は下火になるかもしれない。アメリカにとって特に問題となりそうなのは、中国が日本に次ぐ世界2位の米国債保有国(保有高約1兆800億ドル)だという事実だ。
世界経済に迫る変化はビジネスモデルの崩壊や産業の抜本的改造など、計り知れない波紋を引き起こす。それだけではない。とりわけ中国をめぐって、予測不能な地政学的影響を招くことにもなりかねない。
中国はこの約40年間に、グローバル経済システムの下で小魚からクジラへと成長してきた。牽引役となったのが、貿易・投資分野での欧米との絆の強化だ。その絆が引き裂かれたら、東西冷戦時代的な陣営対立が復活することになりかねない。中国は既にアジア、アフリカ、欧州の一部と自国をつなぐ一帯一路構想によって、自前の経済圏の創設に取り掛かっている。
シンクタンク、新米国安全保障センターのアシュリー・フォン研究員の指摘によれば、中国はより進んだ技術を自国で開発し、欧米のサプライヤーへの依存を減らす取り組みを10年以上前に開始して以来、いわば独自のデカップリングを推し進めてきた。華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の例が示すように、多くの中国企業はアメリカと決裂しても、生き残っていく能力があることを証明している。
大規模デカップリングという考えが衝撃的なのは、過去80年間の世界は総じて、しばしばアメリカの主導の下で経済的統合を深化させてきたからだ。こうしたプロセスは、第1次大戦というグレート・デカップリングへの反動だった。
対中強硬姿勢はもはや超党派
第1次大戦の約10年後には世界恐慌が起き、それを受けて貿易障壁や経済ナショナリズムがはびこった。その結果、各国はゼロサムゲームに突入し、経済的懸念が安全保障上の脅威に化した。当時、日本は原材料需要に押されて満州を占領。それが「大東亜共栄圏」構想を生み出し、やがては資源豊富な東南アジアの占領や真珠湾攻撃につながった。ナチス・ドイツの場合も同様だ。
中国に関しては「デカップリングを唱える際、ある点を懸念すべきだ」と、ハーバード大学ケネディ政治学大学院のダニ・ロドリック教授(国際政治経済学)は語る。「経済をムチとして利用し、経済関係を地政学的競争の人質にすることだ」