「切り離してはならない」米中デカップリングに第2次大戦の教訓
THE GREAT DECOUPLING
世界恐慌後に各国が陥ったゼロサムゲームはやがて全面戦争につながった(真珠湾攻撃で炎上する米海軍の戦艦ウェストバージニア) U.S. Navy/National Archives
<新型コロナウイルス流行で加速する切り離し論。思い出すべきは大戦前夜の日米関係の教訓だ。デカップリングを選択すれば、予測不可能な地政学的影響を招くことにもなりかねない。本誌「米中新冷戦2020」特集より>
彼らを切り離してはならない──アジアの経済大国に駐在する米大使は本国の国務長官に宛てた電報で、そう告げた。「経済的余地」を与えなければ、彼らは力ずくで経済帝国を建設せざるを得なくなる、と。
だが歴史的な景気低迷のさなか、米政府は経済ナショナリストらの手中にあった。そのため、ジョセフ・グルー駐日米大使が東京から打電した警告に、ホワイトハウスは耳を傾けなかった。1935年のことだ。
その後の数年間、アメリカは日本に対する経済的圧力を強化し、通商禁止や原油禁輸措置に乗り出した。グルーの電報から6年後、日米は全面戦争に突入することになる。
アメリカの政策立案者は現在、アジアの別の経済大国との経済的・地政学的対立に駆られている。1930年代と同じく、吹き荒れているのはデカップリング(切り離し)論だ。
約40年間、深化を続けてきた中国との経済関係を解消し、中国の工場や企業、投資への依存を減らす。よりタカ派的な米政権メンバーにとっては、それこそが終わりなき貿易戦争にとどめを刺す道だ。多くの者の目に危険な抱擁と映る経済関係から身を離したいという欲望は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で拍車が掛かっている。
米議員や政権高官は今や、機密関連の広範な輸出禁止措置や中国産品への追加関税、米企業の強制的なリショアリング(国内回帰)など、数々の措置を検討中だ。中国の「経済的帝国主義」を促進しているとの声も上がるWTO(世界貿易機関)からの完全脱退すら俎上に載せる。
米中2大大国の「グレート・デカップリング」という脅威は、歴史的な断絶になる可能性がある。これに匹敵するのはおそらく、世界初のグローバル化のうねりを突如断ち切った1914年の第1次大戦勃発だけだろう。当時、経済大国として密接に絡み合っていたイギリスやドイツは(後にはアメリカも)自己破壊と経済ナショナリズムの大波に身を投げ、その流れは30年間続いた。
現在、デカップリングを駆り立てているのは戦争ではなく、ポピュリストの衝動だ。そこへきて発生したパンデミックが、国際供給網という知恵やグローバル経済の価値に対する数十年来の信頼に揺さぶりをかけ、デカップリング論を加速させている。
果たしてデカップリングはどこまで進むのか。真に問われるべき唯一の疑問はそれだ。
中国企業の生き残り能力
当然ながら、米中間の貿易をめぐる緊張によって一部の多国籍企業は事業モデルの見直しを迫られ、サプライチェーンをアメリカ寄りに再設定することになる。中国とのビジネス関係をさまざまな度合いで変更すべきだという点で、共和党と民主党の意見は党派を問わず一致している。