香港を殺す習近平、アメリカと同盟国はレッドラインを定めよ
Xi Jinping’s Dangerous Game
その一方、新型コロナウイルスのせいで大規模な街頭行動がしにくくなった状況を、香港警察が見逃さなかった。4月下旬には民主派の有力な指導者15人を逮捕。その中には「香港民主主義の父」と呼ばれる81歳の弁護士・李柱銘(リー・チューミン)や民主派の新聞「蘋果日報」(アップル・デイリー)の発行人・黎智英(リー・チーイン)もいた。
この15人の容疑は、昨年の夏に若者たちの大規模な抗議行動が起きたとき「違法な集会」を組織したというもの。中国外務省も彼らに「香港における問題分子」というレッテルを貼った。彼らは長期にわたり収監される可能性が高い。当然、民主派の市民は大挙して街頭に繰り出して抗議したが、重武装の警官隊に蹴散らされた。
それでも今までなら、これほどの弾圧に対してはもっと大規模な抗議行動が起きたはずだ。習政権としては、ウイルス感染の恐れがあれば抗議行動は盛り上がらないと踏んでいるのかもしれない。
制裁で困るのは香港人
なにしろ習にとって、新型コロナウイルスの蔓延は想定外だったようで、初期対応の遅さは一般の国民からも批判された。だからこそ、ここで強い指導者のイメージを打ち出したいという思惑もあるようだ。なりふり構わず、ここで香港を締め付ければ国内の保守派は喜ぶ。批判派に対しても、いかなる抵抗も許さない姿勢を改めて伝えることができる。
香港に約束した高度の自治を守れと諸外国から迫られても、習政権はずっと無視してきた。新華社通信によれば、今回も外務省の趙立堅(チャオ・リーチエン)副報道局長は「(香港問題は)純粋に中国の内政問題」であり「いかなる外国も干渉する権利はない」と述べている。
諸外国にできることは限られている。香港に対する主権は23年前から中国にあるので手を出せないし、中国の領土に軍隊を出すという選択肢もあり得ない。
ドナルド・トランプ米大統領も介入には及び腰だ。国家安全法についても、「実際にそうなったら極めて強い取り組みをする」と述べるにとどめている。
そもそもトランプ政権は、人権問題を敵対国家との駆け引きに使える戦術的なものと位置付けている。そしてロシアやサウジアラビア、トルコ、エジプトなどの強権的な政権の肩を持つ。
その一方、今秋の大統領選で激突するはずの民主党候補ジョー・バイデン前副大統領に対しては「中国に甘い」と攻撃している。大統領だけでなく、政府高官の頭にも選挙のことしかない。諸外国の首脳も、今のトランプ政権は11月の選挙に勝つことしか考えていないと割り切っている。