香港を殺す習近平、アメリカと同盟国はレッドラインを定めよ
Xi Jinping’s Dangerous Game
想定外の事態ではない。イギリスは香港の「返還」に合意した時点で、あらゆる影響力を失った。香港の自治を50年間(2047年まで)は維持するとの約束は取り付けたが、約束を守らせる手段は何もなかった。
中国側の本音はすぐ明らかになった。2003年、北京の意向を受けた香港政府は今回と同じくらい露骨な国家安全条例を持ち出し、議会で成立させようとした。あのときは市民の大規模な抗議行動で撤回を強いられた。しかし当時の中国政府は今とは違う。当時の指導者・胡錦濤(フー・チンタオ)は、習ほど強引ではなかった。
コロナの隙に一斉逮捕
2012年に習が実権を握って以来、中国は毛沢東の時代に後戻りしている。習は共産党と政府の権限を拡大する一方、自分自身への権力集中に努めてきた。毛沢東の死後はそれなりに共産党の権威が揺らぎ、統制が緩む時期もあったが、今は違う。10年前に比べてもずっと自由が少なく、統制が強まっている。
そして今、中国政府は香港の現状を放置できないと考えているようだ。昨年には香港在住の容疑者を中国本土に引き渡す逃亡犯条例改正案が、住民の大規模な抗議運動によって葬られてしまった。
もはや現地の行政府や議会には任せられない。習政権はそう判断し、だからこそ本土の国家安全法を香港にも適用すると決めた。年内には香港の立法会選もある。制度上は親中派が絶対に勝てる仕組みになっているが、昨年の香港区議選では親中派が惨敗を喫している。
油断はできない。議会の多数を民主派に握られてからでは遅い。だから習政権は先の全国人民代表大会(日本の国会に相当)で、国家安全法を香港にも適用すると決した。これが施行されたら、香港の民主派も中国本土の法律で裁かれることになる。
民主派の政治家を立法会から排除するのは簡単だ。タイの軍事政権がしたように、新法を過去にさかのぼって適用できることにすれば、今までの言動を理由に民主派の立候補資格を取り消すことができる。そうすれば、立法会での親中派優位は今後も揺るがないことになるだろう。
当然のことながら、中国共産党も自分たちが嫌われていることは承知している。昨年6月末に発表された香港の世論調査でも、自分のことを「中国人」と見なす香港市民は約10人に1人しかおらず、30歳以下の若者の大半は自分を「香港人」と見なしていた。
それでも中国側は、外国の勢力が反感をあおっているせいだと非難する。香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官も、学校教育の偏向を批判している。