G7ならぬ「D10」がトランプと中国の暴走を止める切り札
Forget the G-7, Build the D-10
11月の米大統領選の結果にかかわらず、イギリス主導のD10は、EUにとっても、アメリカと付き合う上で頼りになる枠組みとなるはずだ。EU にとって、民主主義国のグループであるD10は一種の「保険」となり、これがあれば、5Gとサプライチェーン問題でトランプ政権と建設的な協議がしやすくなる。その証拠に、人口知能(AI)の利用について、G7で共通の倫理基準を策定するというフランスの提案をトランプはあっさり受け入れた。トランプはまた、5Gのセキュリティリスクについて、EUが評価指針を定めたことも評価している。
もしも米大統領選で民主党の指名候補ジョー・バイデン前副大統領が勝てば、EUは気候変動対策と多国間の貿易交渉についても、D10を通じて米政府に新たな作業グループの結成を呼びかけられる。
バイデンが勝った場合、D10はバイデンの外交政策の課題である安全保障、腐敗、人権に関する国際的な作業グループの立ち上げにも役立つはずだ。そうなれば、D10はかつてのG7に匹敵するか、それを上回る国際的な影響力を持つ枠組みとなる。
中国が着々と覇権拡大を進めるなか、大西洋と太平洋をまたいで民主主義の国々が結束する意義は明らかだ。一方で、ただの「おしゃべりの場」ではなく、核心的な問題に的を絞って、限定的な行動を起こすことを目指すD10が発足すれば、勝ちか負けかのゼロサム思考で一国主義的に中国に対抗しようとするアメリカに歯止めをかけることもできる。
ブレグジット後も、イギリスの出番はなくなったわけではない。かつての覇権国家イギリスは外交巧者の名に相応しく、今こそ民主主義の国々を結ぶ橋渡し役を果たすべきだ。NATOの初代事務総長を務めたヘイスティングズ・イスメイが1949年に打ち出した有名な戦略がある。いわく「ソ連を締め出し、アメリカを引き入れ、ドイツを抑え込む」。それに倣えば、D10の戦略はさしずめ「中国を締め出し、インドを引き込み、アメリカを落ち着かせろ」だろう。
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