【特別寄稿】「8割おじさん」の数理モデルとその根拠──西浦博・北大教授
THE NUMBERS BEHIND CORONAVIRUS MODELING
SIRモデルを活用したシミュレーションで42万人死亡と試算したものが、上のグラフだ(3月19日の専門家会議の提言書内に示したもの)。その計算式には常微分方程式を用いた(計算コードはオンラインのプラットフォームGitHubに掲載した〔注1〕)。このとき異質性を加味して年齢群を0~14歳、15~64歳、65歳以上の3つに分けて計算した。
次に、基本再生産数について説明する。数理モデルでは、これは「R₀(アール・ノート)」と記述され、「人口集団が完全に感受性を有する者からなる場合に、1人の感染者が平均して何人に感染させるか」を表す。基本再生産数を用いると、前述の計算コードにあるようにSIRモデル上では感染係数がγR₀/N(ここでγが回復率、Nが人口)となる。
日本では北イタリアのように全く制御できないような大規模流行が十分な期間、観察されていないため、流行対策に影響されていない、流行を丸腰で受けた場合の基本再生産数R₀が定量化できていない。他方で、1人当たりの感染者が生み出す2次感染者数の平均値、つまり実効再生産数(ある時点における実際の再生産数)を経時的に推定している際、3月中旬以降に全国で2を少し超える程度で安定的な挙動を示したことから、流行対策の行われない状況下では2を超える安定的な値を取るものと考えられる。
そのため、3月中旬までの欧州諸国の推定値が2~3の間にあることに基づき、便宜的にドイツにおける流行の推定値である2.5を利用して数値計算を実施してきた。これまでの自身の研究を基に平均世代時間(1人の感染者が感染してから、その2次感染者が感染するまでの期間)を4.8日と想定しているが、SIRモデルでは平均世代時間が平均感染性期間(感染源が感染性を有する期間)に等しいため、それを1/γ=4.8日とした。
では、R₀は爆発的な感染者数の増加が見られた国でそれぞれが算出しているなか、なぜ日本はドイツの推定値に依拠したのか。ドイツでは医療提供体制が堅実に守られつつサーベイランス(感染症の発生動向調査)が行われており、欧州における推定値のちょうど中央値の位置にあったためだ(詳細に不確実性を検討するには、R₀を2~3に変動させて計算をする感度分析を実施するのがいい)。
先述のとおり、年齢群は15歳未満の子供、15~65歳未満の成人(生産年齢人口)、65歳以上の高齢者、という3つに分けた。年齢群を分けて計算しているのは、子供は発病者・重症者が少なく、他方で高齢者に重症化する患者が多いという年齢別の特徴を加味するためだ。
ただし、観察情報が十分でない間、より詳細な年齢区分は本数値計算では省略している。例えば、年齢に応じた感染性の異質性(年齢依存性)は不明なので考慮することができておらず、感受性だけを、早期にデータが集まっていた武漢の2月初旬までの重篤患者数 (子供はほぼゼロ、生産年齢人口:高齢者でおおむね1:3から1:4程度の比)に同数程度の時点で合うように年齢群別のalpha という比率で分布するように調整した。
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〔注1〕GitHub掲載 <https://github.com/contactmodel/COVID19-Japan-Reff> 内の「BerkleyMadonna_May2020.txt」