WHO演説で習近平が誓ったコロナ後の「失地回復」
Decoding Xi Jinping’s Speech
WHOはSARS(重症急性呼吸器症候群)の対応などへの反省から、2005年にパンデミック(感染症の世界的流行)の新定義を設けた。それに従えば1月下旬にも新型コロナでパンデミック宣言を出すべきだったのに、実際にはイタリアが全国的なロックダウンを宣言し、アメリカでも感染拡大が深刻化し始めた後の3月11日。宣言の遅れに中国の圧力があったのは明らかだが、習はもちろん無視。それどころか「公衆衛生の分野におけるグローバルガバナンス」の強化を訴えた。
だが、新型コロナについて包括的な調査を行うべきだという世界中からの声の高まりは、さすがに無視できなかったようだ。ウイルスの起源ではなく「グローバルな対応」について「科学に基づく」調査を支持する姿勢を示した。
科学に基づく調査と明言することで、暗に「政治的な批判はお断り」とクギを刺したわけだが、中国自身はWHOに政治を持ち込んでいる。今回の年次総会に、台湾のオブザーバー参加が認められなかったのも中国の反対のせいだ。
演説の中で、習は何度か「人類は運命共同体だ」と語っている。これはヨーロッパの怒りを懐柔する狙いがあったのかもしれない。
5月初め、EUと中国の外交関係樹立45周年を祝って、EU加盟国の駐中国大使が連名で中国紙に寄稿した公開書簡が、検閲・修正されていたことが判明。EUは結果的に受け入れたが異議を唱えていた。習が演説の最後で言及した「我々の地球を守る」という表現は、まさにEU大使たちが書簡で唱えたことだった。
習が示した提言の中でも特に目を引くのは、アフリカに対する手厚い支援の表明だろう。今回のパンデミックでは、どの国も国内の対応に追われ、アフリカは忘れられた存在になりつつある。欧米諸国では、その流れが逆転することはなさそうだ。だが、中国が国際社会で大きな影響力を維持するには、アフリカ諸国の支持が欠かせない。にもかかわらず、中国では4月、中国当局が国内でアフリカ人を差別的に扱っているとして、アフリカ諸国の駐中国大使が抗議する書簡を中国外務省に送り付けていた。