最新記事

中国

WHO演説で習近平が誓ったコロナ後の「失地回復」

Decoding Xi Jinping’s Speech

2020年5月27日(水)19時40分
バレリー・ニケ(仏戦略研究財団アジア研究主任)

習近平のWHO総会開幕式での演説姿を報じるニュース画面(北京、5月19日) TINGSHU WANG-REUTERS

<年次総会の場を借りて習が猛アピールしたのは、失地回復の決意表明とダメージコントロールだった>

新型コロナウイルス感染症が、中国からヨーロッパ、アメリカを経て、中南米で猛威を振るうなか、WHO(世界保健機関)の年次総会が開かれた。5月18日の開会式を含め、2日間の短縮日程は、全てビデオ会議で進行。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が登場したのは、その開会式でのことだ。

その演説を読み解くと、中国の防衛線と弱点、そして今後何に重点を置くつもりなのかが見えてくる。

中国が今、何よりも力を入れているのは、新型コロナウイルスは「中国製」だという認識を、「世界に不意打ちを食らわせた公衆衛生上の緊急事態」へと転換することだ。習は、「ウイルスに国境はなく、病気に人種は関係ない」と念を押した。中国もこのウイルスの被害者であり、世界が被ったダメージに対して一切の責任はないというわけだ。

習は演説の早い段階で、「失われた全ての命に哀悼の意」を表明して、中国に対する非難を封じ込めようとした。確かに武漢の閉鎖など、中国政府は思い切った措置を講じてきたが、それより前の初期の対応を疑問視する声も多い。だが習は、中国はオープンかつ透明性を確保した態度で「タイムリーに」行動し、ウイルスのゲノム情報を世界中の医療関係者と「速やかに共有した」と断言した。

WHOは、少なくとも感染が拡大し始めた当初は、中国の意向に忖度していたというのが一般的な見方だが、習はそんな声も一蹴。WHOのリーダーシップを強調して、テドロス・アダノム事務局長の「多大な貢献」を絶賛した。

その演説は、ようやく手に入れかけていた世界の舞台における主役級の地位を取り戻すための、いわば失地回復の宣戦布告だ。そのために習が取った戦術は、ドナルド・トランプ米大統領が唱える「アメリカ・ファースト」とは対照的な提案をし、アメリカと世界の間にできた溝を一段と大きくすることだった。

この演説の数日前、FBIは、中国がアメリカの研究機関にサイバー攻撃を仕掛け、新型コロナのワクチンや治療法の開発情報を盗もうとしていると警告を発した。だが、習は涼しい顔で、開発されたワクチンは「世界的な公共財」として、誰でもアクセスできるようにすると宣言した。

政治的な批判はお断り

こうした医療研究における国際協力を唱える上で、習は改めてWHOのリーダーシップを強調。WHOへの拠出金凍結を示唆するアメリカへの当て付けのように、自らの拠出を増やすことを約束した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 9
    ロシア軍が従来にない大規模攻撃を実施も、「精密爆…
  • 10
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中