最新記事

マスク外交

欧州一の反中国家チェコに迫る中国「マスク外交」

China’s Mask Diplomacy Won’t Work in the Czech Republic

2020年5月22日(金)21時13分
ティム・ゴスリング(ジャーナリスト)

過去数年、チェコと中国の関係は悪化してきた。チェコに大規模な投資を約束していた中国のエネルギー企業CEFC(中国華信能源)が2018年に経営破綻すると、チェコ国内での中国の影響力が低下し始めた。その後、中国の国有投資銀行CITIC(中国国際信託投資公司)がチェコにあるCEFCの資産を引継ぐと、チェコの地元財閥が経営するJ&Tフィナンシャル・グループが中国政府による買収に反発したのだ。

2018年10月には、プラハ市長が中国から「一つの中国」原則を尊重するよう圧力を受けたことを理由に、北京との姉妹都市関係を解消。これを受けて、中国は経済的な報復措置も辞さないと迫った。2019年11月には、中国がチェコでの影響力を確立するために、同国有数の大学に資金提供を行っていることが発覚。同じ頃、チェコで一番の大富豪であるピーター・ケルナーが、メディアに中国寄りの記事を掲載させていたことも分かった。

こうしたスキャンダルの傍ら、チェコの保安当局は、中国スパイとのハイブリッド戦争がチェコにとって最大の脅威だと警告を発した。チェコ国民の対中感情は、EUの中でも最低水準に悪化。ポピュリストのゼマンはこうした雰囲気を察知すると、中国が投資の約束を守っていないと不満を述べた。こうした不和の結果、2005年から2019年にかけて、中国がチェコに投じた資金の総額はわずか9億6000万ドル。同時期にハンガリーに投じた48億4000万ドルと比べれば格差は歴然だ。

狙いは5Gインフラ構築への参加

だが中国は今、とりわけチェコ国内における5G通信網の開発をめぐる交渉を再開したいと考えている。チェコ政府は2019年、華為技術(ファーウェイ)が同国の5Gインフラ構築に参加することを阻止(もしかしたら中国にとって、世界との関係悪化の中でもこれが一番の打撃だったかもしれない)。さらにその後、チェコのサイバーセキュリティ当局(NUKIB)が、ファーウェイは中国政府に命じられれば顧客データを渡す可能性があると警告した。

この警告が、ファーウェイと5GをめぐるEU各地での議論に影響を及ぼし、EUは2019年に発表した安全性評価報告書の中で、NUKIBと同じ警戒を示した。「NUKIBは早い段階で警告を発し、EUはそれをとても深刻に受け止めた」とカラスコバは言う。

中国の影響力拡大戦略は、中東欧の一部の国では功を奏した。強権的なハンガリーの政権は、資金提供の代わりに透明性と法の秩序を求めてくるEUよりも中国の資本を好んで受け入れている。ハンガリー政府は、中国への見返りとして、南シナ海での領有権主張や中国の人権問題に反対するEUの決議に反対してきた。ギリシャとセルビアも中国からの投資を受け入れ、中国支持を表明している。

だがチェコでは、ゼマンと政界の既成勢力の間で長年、中国との関係をめぐる激しい議論が交わされてきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中