欧州一の反中国家チェコに迫る中国「マスク外交」
China’s Mask Diplomacy Won’t Work in the Czech Republic
過去数年、チェコと中国の関係は悪化してきた。チェコに大規模な投資を約束していた中国のエネルギー企業CEFC(中国華信能源)が2018年に経営破綻すると、チェコ国内での中国の影響力が低下し始めた。その後、中国の国有投資銀行CITIC(中国国際信託投資公司)がチェコにあるCEFCの資産を引継ぐと、チェコの地元財閥が経営するJ&Tフィナンシャル・グループが中国政府による買収に反発したのだ。
2018年10月には、プラハ市長が中国から「一つの中国」原則を尊重するよう圧力を受けたことを理由に、北京との姉妹都市関係を解消。これを受けて、中国は経済的な報復措置も辞さないと迫った。2019年11月には、中国がチェコでの影響力を確立するために、同国有数の大学に資金提供を行っていることが発覚。同じ頃、チェコで一番の大富豪であるピーター・ケルナーが、メディアに中国寄りの記事を掲載させていたことも分かった。
こうしたスキャンダルの傍ら、チェコの保安当局は、中国スパイとのハイブリッド戦争がチェコにとって最大の脅威だと警告を発した。チェコ国民の対中感情は、EUの中でも最低水準に悪化。ポピュリストのゼマンはこうした雰囲気を察知すると、中国が投資の約束を守っていないと不満を述べた。こうした不和の結果、2005年から2019年にかけて、中国がチェコに投じた資金の総額はわずか9億6000万ドル。同時期にハンガリーに投じた48億4000万ドルと比べれば格差は歴然だ。
狙いは5Gインフラ構築への参加
だが中国は今、とりわけチェコ国内における5G通信網の開発をめぐる交渉を再開したいと考えている。チェコ政府は2019年、華為技術(ファーウェイ)が同国の5Gインフラ構築に参加することを阻止(もしかしたら中国にとって、世界との関係悪化の中でもこれが一番の打撃だったかもしれない)。さらにその後、チェコのサイバーセキュリティ当局(NUKIB)が、ファーウェイは中国政府に命じられれば顧客データを渡す可能性があると警告した。
この警告が、ファーウェイと5GをめぐるEU各地での議論に影響を及ぼし、EUは2019年に発表した安全性評価報告書の中で、NUKIBと同じ警戒を示した。「NUKIBは早い段階で警告を発し、EUはそれをとても深刻に受け止めた」とカラスコバは言う。
中国の影響力拡大戦略は、中東欧の一部の国では功を奏した。強権的なハンガリーの政権は、資金提供の代わりに透明性と法の秩序を求めてくるEUよりも中国の資本を好んで受け入れている。ハンガリー政府は、中国への見返りとして、南シナ海での領有権主張や中国の人権問題に反対するEUの決議に反対してきた。ギリシャとセルビアも中国からの投資を受け入れ、中国支持を表明している。
だがチェコでは、ゼマンと政界の既成勢力の間で長年、中国との関係をめぐる激しい議論が交わされてきた。