最新記事

ロックダウン

ロックダウンで、養蜂家が移動できず各地の農作物の受粉がままならない事態に

2020年5月22日(金)18時40分
松岡由希子

ハチは各地の農作物の受粉を担っていた... LazingBee-iStock

<世界各国で実施された移動制限は、養蜂家に飼育されているハチに大きな影響をもたらし、ひいては、農作物の栽培にも影響が及ぶおそれが指摘されてい...>

世界全体で2万種類以上のハチが生息し、植物の花粉を媒介している。私たちの食料の約75%はハチなどの花粉媒介者に依存しており、農作物の生産において不可欠な存在だ。

2020年3月以降、新型コロナウイルス感染拡大を抑制するべく世界各国で実施された都市封鎖(ロックダウン)は、養蜂家やそのもとで飼育されているハチに大きな影響をもたらし、ひいては、農作物の栽培にも影響が及ぶおそれが指摘されている。

ハチの巣が各地に順次移動して、農作物の受粉を助けていた

世界的な農業大国である米国では、遠方の養蜂家がハチの巣を農地に運び込み、ここにいるハチを使って農作物を受粉させるのが一般的だ。アーモンドの生産量が世界全体の75%を占めるカリフォルニア州には、毎春、米国内のハチの3分の2が集められ、アーモンドの受粉を媒介している。

これらのハチは、アーモンドの受粉時期が過ぎると、チェリーやりんご、ブルーベリー、かぼちゃなど、他の農作物を栽培する農地へと順次移動していく。英国でも同様に、3万匹のハチが群れをなすハチの巣3万個が、国内の果樹園や畑を転々とし、農作物の受粉を助けている。

都市封鎖による外出禁止や移動の制限に伴って、養蜂家はハチの世話や給餌、採蜜などの作業ができない状況に置かれている。ハチを長距離にわたって移動させることもままならない。農家からは「ハチがいないまま、農作物の受粉時期を迎えてしまうのではないか」との懸念が広がっている。

フランス農業・食料・漁業・農村省では、国内の養蜂家からの要望を受けて、3月20日、感染防止対策の徹底を条件に、養蜂場への立ち入りやハチの巣の移動など、一部の業務を限定的に許可した

飢餓に直面する人が、2020年末までに2億5000万人規模になる...

国際養蜂協会連合は、3月30日、世界各国および地方自治体に対して、フランスと同様に、都市封鎖の期間中、養蜂家の養蜂場への移動を認めるよう、要望している。

専門家によれば、ハチの移動の制限による食料安全保障上のリスクは小さいとみられるものの、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、グローバル規模で既存のフードシステムに甚大な影響を与えている。

国連世界食糧計画(WFP)は「新型コロナウイルスの感染拡大により、飢餓に直面する人が2020年4月時点の1億3500万人から2020年末までに倍増し、2億5000万人規模になる」との予測を示している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ボールは中国側に、米はディールの必要なし 貿易交渉

ワールド

イラン最高指導者、米との協議「楽観も悲観もせず」 

ワールド

エーザイの認知症薬レカネマブ、EU「厳しい」条件付

ビジネス

米輸入物価、3月は‐0.1% エネルギー価格低下で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ印がある」説が話題...「インディゴチルドレン?」
  • 4
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 5
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 7
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    そんなにむしって大丈夫? 昼寝中の猫から毛を「引…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中