新型コロナの社会制限下で警察が人権侵害 インドネシア人権委、大統領に監督強化求める
一部で犯罪でっちあげの可能性も
またジャワ島ジョグジャカルタにある環境・人権団体「インドネシア環境フォーラム(WALHI)」が、事務所で新型コロナウイルス被害者の支援活動会議を開催していたところ、警察官が押しかけ、会議室に人が「密集」していたことを理由に強制的解散を求めるとともに、その場にいた学生活動家3人を不当に拘束。明らかな犯罪容疑がないにもかかわらず逮捕したという。
この3人の活動家は毎週木曜日に続けられている人権擁護の集会に参加している定例メンバーであることから、警察に意図的に別件逮捕されたとの見方がでている。
このほか辛口の政治評論家として知られるラビオ・パトラ氏もメッセンジャーアプリWhatsAppで偽ニュースを流した容疑で警察に逮捕されている。しかしラビオ氏によると、彼のアカウントが逮捕の数日前から何者かに乗っ取られていた状態で、そこに問題となった書きこみがあったとして「自分は無関係、無実であり、逮捕はでっちあげである」と強く反発しているという。
事実、WhatsAppのアカウントを乗っ取って偽ニュースを流した人物を警察は捜査していないことから、警察関係者ないし協力者による犯行との疑惑も浮上しており、警察が犯罪を捏造した可能性もあるという。
コムナスハムではこのラビオ氏のケースのように警察が犯罪をでっちあげて逮捕に及んだり、標的とする人物の逮捕に踏み切ったりした可能性が否定できない事例もあると指摘。警察権力の濫用、人権侵害に対する重大な問題が潜んでいることも十分考えられるとして、国家警察のイドハム・アジズ長官と主要幹部に対し「職務遂行中の全ての警察官による適正な法の執行と人権擁護の徹底」を要求した。同時に事例に挙げられた8件の事案に関与した警察官への捜査・取り調べで真相究明も求めている。
さらにコムナスハムは政府機関であることからジョコ・ウィドド大統領に対しても「表現・報道の自由や人権尊重という普遍的価値への尊重を警察に徹底させるよう指導する」ことを提言している。
例年の「小遣い稼ぎ」不足も一因か
4月24日から5月23日ごろまで続くイスラム教徒の重要行事である「断食月」の期間中は例年であれば、断食が終了した後に故郷や家族親戚のもとに帰省する長期休暇があり、そのための費用や故郷や家族への手土産を購入する費用を捻出するため、ジャカルタ市内などでは給与水準の低い警察官による交通取り締まりが厳しくなる。これは違反検挙というより、「見逃してやる代わりに"賄賂"をもらう小遣い稼ぎ」目的といわれている。
ところが今年は新型コロナウイルスの感染拡大防止のPSBBで、検問や市内巡回の任務が増え、マスコミの目や共に活動する国軍兵士、地方公共団体、保健医療関係者、地区の自警団などもいることなどから不満がうっ積。その結果、警察官による暴力行為が増えているのではないかとの見方も出ている。
いずれにしろコムナスハムに届いた個別の報告事例は一つ一つは小さな人権侵害ともいえるものではあるが、そうした個人の問題に対してもきちんと対応して国民の権利を守るコムナスハムの役割はきちんと機能していることが今回の警察に対する声明で明らかになった。警察への反感、反発と同時に国民のコムナスハムへの信頼と期待がさらに高まっている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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