最新記事

日本社会

人手不足に新型コロナが追い打ち 医療現場同様に疲弊する日本の介護現場

2020年5月19日(火)11時49分

新型コロナウイルスの感染拡大で崩壊の危機に瀕しているのは、患者の救命に追われる医療現場だけではない。高齢化が進む日本では、介護現場も人材がひっ迫して飽和状態に陥ろうとしている。写真は職員と入居者40人以上が新型コロナウイルスに感染したと報じられている東京都内の介護施設。5月4日撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)

新型コロナウイルスの感染拡大で崩壊の危機に瀕しているのは、患者の救命に追われる医療現場だけではない。高齢化が進む日本では、介護現場も人材がひっ迫して飽和状態に陥ろうとしている。

ロイターはこのほど、日本の介護施設関係者10人以上に話を聞いた。そこから浮かび上がってきたのは、子どもの休校で出勤できない職員が増えたり、予定していた外国人スタッフの来日が中止になるなどし、入居者に十分なケアを提供できなくなりつつある現場の苦悩だった。

27歳の女性職員が働く東京のある特別養護老人ホームでは、おむつが汚れていてもこれまでより長く放置されるケースが増えている。

「全てに時間がかかってしまうんですよね」と、彼女は言う。「たとえば食事にいつもより時間がかかることで、トイレの世話が遅れてしまう」

週10時間までなら残業を申請できるが、それではとても足りない状況が続いている。ある入居者が別の入居者の食べ物に手を出すこともある。それに「ぎりぎり気づいた」ことが何度もあったと、女性職員は打ち明ける。

自身が感染するリスク

65歳以上が人口の約28%を占める日本では、もともと介護従事者の不足は深刻な問題だった。

日本で介護を必要とする人の数は670万人。そのうち約100万人が施設に入っている。米国はそれ以上の120万人が入所しているが、総人口は日本の2倍だ。米国は日本ほど高齢化が進んでおらず、65歳以上が人口に占める割合は16%と、30%近い日本のほぼ半分にすぎない。

日本における介護職の有効求人倍率は今年1月時点で3.95倍と、全職種平均の1.49倍を大きく上回る。介護施設では入居者3人に対し1人の職員を付けることが法律で義務付けられているが、厚生労働省は2月、新型コロナの影響で職員の不足が見込まれることから、「一時的に人員基準を満たすことができなくなる場合、柔軟な取扱いが可能」との通達を出した。

医療法人社団悠翔会の佐々木淳理事長・診療部長は「介護の現場は、何とか持っているというのが現実。職員1人が休んだらもう入所者全員に手が回らなくなる」と話す。「高齢者はデリケートなので、どんな環境の変化にも影響を受けてしまう」。

現在、高齢者介護施設の多くは、新型コロナ感染防止のため、グループで行うゲームや体操を中止している。3月初めごろからは家族との面会も禁止しており、入居者に精神的、身体的に多大な苦痛を強いている。

佐々木理事長によると、ある男性は家族を探して施設の中を歩き回っていた。また、前出の女性職員によると、ある入居女性は家族が面会に来ないために娘が死んだと思い込み、葬式の準備を始めようとしたという。

東京に住む金子誠一さんが、施設に入る96歳の父親と最後に会ったのは3月の初め。週3─4日は基本的に部屋で1人きりで過ごしているそうで、金子さんは父親の認知症が進むことを懸念している。施設は入居者が家族と電話で話せるよう努力しているものの、それは職員の仕事がまた1つ増えることを意味する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中