最新記事

日本社会

人手不足に新型コロナが追い打ち 医療現場同様に疲弊する日本の介護現場

2020年5月19日(火)11時49分

施設の職員には自身が感染するリスクもつきまとう。NHKによると、日本では5月10日までに624人の新型コロナウイルスによる死亡が報告されているが、その約60%が介護施設で確認されたものだった。

職員は、もし家族の誰かが高熱を出せば2週間自宅で待機しなければならない。勤務中はマスクの着用が義務付けられており、マスクを怖がる入所者もいるという。厚労省によると、介護施設の職員全てにコロナウイルス感染の有無を調べる検査を行う計画はない。

淑徳大学社会福祉学科の結城康博教授は「このまま6月、7月、8月になれば、職員の数は減り続け、介護サービスを提供できなくなる」と懸念する。「そうなれば、介護の崩壊となりかねない」。

1万人の外国人材

新型コロナ危機の特徴の1つは、人びとの移動が制限されたこと。外国人材に依存してきた介護現場はその影響をもろに受けている。日本では現在、約1万人の外国人が老人介護施設で働いている。

大阪の特別養護老人ホームに勤務する34歳のフィリピン国籍の女性は、日本で働きたい人材を3000人ほど集め、随時、募集のためフィリピンへ行く。4月に新たな人材が来日する予定だったが、新型コロナの影響で取りやめになったという。

「(コロナのせいで)もちろん来られない」と話す彼女が働く施設では、80人程度のスタッフのうち13人が外国人だという。「仕事はとてもきつい」と彼女は語る。

東京に住む清水富生子さんの両親は、神奈川県川崎市の介護付き有料老人ホームで暮らしている。清水さんも例外なく、80代の両親と会えない日々が続いている。

「両親にとって家族と話すのが一番元気が出ることだと思うので、そうしてあげたい。会えないのはとても寂しい」と、清水さんは話す。

母親の久子さんは、筋肉が衰えないようにと毎日施設の中を散歩している。「また元の日常に戻ってほしいけど、それまでには長い時間がかかると思う」と、久子さんは電話で語った。「それを考えると、何となく少し憂鬱な気がします」


Elaine Lies

(日本語記事作成:宮崎亜巳、久保信博※)

[東京 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・「新型ウイルスは実験室で生まれた可能性もある」とする論文が登場
・韓国政府、「K防疫」の成果を発信する最中に集団感染が再発
・トヨタ、国内工場は6月も生産調整 工場稼働状況まとめ
・緊急事態宣言、全国39県で解除 東京など8都道府県も可能なら21日に解除=安倍首相


20200526issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月26日号(5月19日発売)は「コロナ特効薬を探せ」特集。世界で30万人の命を奪った新型コロナウイルス。この闘いを制する治療薬とワクチン開発の最前線をルポ。 PLUS レムデジビル、アビガン、カレトラ......コロナに効く既存薬は?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中