最新記事

メガクラスター

長崎で再現したクルーズ船の悪夢 なぜ対応は後手に回ったのか

2020年5月7日(木)10時42分

ダイヤモンド・プリンセスと同じ状況

コスタ・アトランチカの事態をめぐり、公衆衛生の専門家からは、感染者と非感染者を同じ船内に隔離した日本の対応がさらに多くの感染者を出す恐れがあると指摘が相次いだ。

米ジョンズ・ホプキンス大学健康安全保障センターのアメッシュ・アダルジャ博士は、「陽性反応がある者とそうでない者を混在させれば、感染者が増えるだけだ」とし、同クルーズ船からすべての乗員の下船を求めた。

アダルジャ氏は、700人以上が感染したダイヤモンド・プリンセスと今回のケースを比較し、「ダイヤモンド・プリンセスと似たような状況が生まれているようだ」と指摘。「感染者を下船させないことで乗員の間に感染が広がる。重症化にもつながりうるし、(対策を徹底すれば)予防することもできる」と強調した。

陽性反応を示したコスタ・アトランチカの乗員149人の中に、同船のシェフであるカフェリーノ・オガヨンさんがいる。「話を聞いたときはショックで大泣きした」と、マニラにいる娘のロザンさんは言った。「でも私たちはカトリック教徒。誰のせいでもない、仕方がないと父は言っていた」

感染していない乗員を帰国させたコスタ・クルーズ社は、ロイターの取材に対し、「法令順守と環境保護、そして従業員の健康と安全は常に最優先事項」だとコメントした。 三菱重工は、当局に全面的に協力するとした。

長崎でトマトラーメン

コスタ・アトランチカが上海から日本に向け出発したのは1月27日。感染拡大が深刻化した中国での修繕を取りやめ、乗員だけを乗せての出港だった。多くをフィリピン人船員が占めるこのイタリア船籍のクルーズ船は、1月29日に長崎へ到着した。ダイヤモンド・プリンセスが横浜港に入港する5日前のことだ。

ダイヤモンド・プリセンスはまもなく新型コロナの感染者が発生し、3700人以上の乗員・乗客が隔離された。当初は非感染者も感染者も同乗していたため被害は拡大し、最終的に14人が死亡した。

長崎県は3月6日、コスタ・アトランチカにも乗員を乗下船させないよう要請した。しかし、警告は聞き入れられなかった。

その日、ダイヤモンド・プリンセスでは香港からの乗客が新型コロナによる7人目の犠牲者となった。一方、コスタ・アトランチカの乗員サラ・ジョウさんは、長崎市内の繁華街でトマトスープのラーメンを食べ、スターバックスでコーヒーを飲んでいた。

「美味しい日本のラーメン。最後の一滴までスープを飲み干すこと間違いなし」と、ジョウさんはフェイスブックに書き込んだ。ロイター はコメントを求めて彼女にメッセージを送ったが、返答は得られていない。

感染者が増加し、日本政府が4月7日に非常事態宣言を出したにもかかわらず、コスタ・アトランチカでは乗員の乗り降りが続いた。関係者よると、20日に最初の感染者が確認されるまでに、4月は30人以上が乗り降りしていたという。

日本は外出しても罰則がない。周囲からの社会的な圧力と、当局の言うことを尊重するする人々の気持ちが頼りだ。コスタ・アトランチカを担当する厚労省の当局者は、命令することはできないと話す。


【関連記事】
・東京都、新型コロナウイルス新規感染38人確認 4日連続で減少続く
・「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に
・日本とは「似て非なる国」タイのコロナ事情
・トランプ「米国の新型コロナウイルス死者最大10万人、ワクチンは年内にできる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中