長崎で再現したクルーズ船の悪夢 なぜ対応は後手に回ったのか
長崎市の造船所に停泊し、乗員の間で新型コロナウイルスの集団感染が発生したコスタ・アトランチカの船内。写真は4月25日撮影。5月1日、長崎県を通じ国立感染症研究所が提供(2020年 国立感染症研究所)
乗員数百人を乗せたコスタ・アトランチカ号が長崎市の造船所に接岸したのは1月下旬、厚生労働省が横浜港沖に投錨するクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセス号で検疫を始める7日前のことだった。
それから5週間、ダイヤモンド・プリンセスは中国国外で初の新型コロナウイルスの「ホットスポット」の1つとなり、さらに全国各地に感染が広がった。にもかかわらず、日本の当局は上海から到着したコスタ・アトランチカには何の指導も与えず、乗員の多くが長崎市内で買い物と食事をし、ソーシャルメディアへの写真投稿などを続けた。
その結果、長崎県当局によると、コスタ・アトランチカは、4月20日以降、乗員623人(同日時点)のうち、4分の1近い149人の感染が確認された。これまでに乗員5人が入院し、そのほとんどが一時重症化した。
英オックスフォード大学のデータをもとにロイターが計算したところによると、コスタ・アトランチカのケースは日本で発生した最も感染率が高いクラスター(感染者集団)の1つとなった。
「相手が見えず、長期戦になる」
横浜港に停泊するダイヤモンド・プリンセスのクラスター化に内外の懸念が集まる中、同じクルーズ船であるコスタ・アトランチカでは、なぜ感染拡大防止策の徹底が出遅れたのか。
長崎市は4月29日に「市中感染の可能性は低い」との調査結果を発表したものの、同船が停泊する長崎港の近隣住民からは行政や企業側の対応の鈍さに怒りの声も上がった。
厚労省の当局者によると、3月上旬に長崎県が同船の乗組員に対して乗下船の自粛を要請してからも、数十人が近隣を観光するなどしていた。しかし、感染経路の追跡は困難で、どのようにウイルスが船内に広がったのか分からないという。
地元当局によると、同船を運航するイタリアのコスタ・クルーズ社は5日までに、船内に待機していた乗組員のうち、検査で陰性となったインドネシア国籍の44人を含む181人を帰国させた。
一方、同船の修繕を請け負い、香焼(こうやぎ)工場に受け入れた三菱重工業の長崎造船所は4月25日、地元で開かれた説明会に出席。乗員の乗り降りについて十分な説明をせずに誤解を招いたことなどを謝罪した上で、当局と協力していくとした。
「行政にできること、企業にできることがあるはずだ」と、三菱側と面会した香焼町連合自治会の浜崎孝教会長は対策の徹底を訴えた。「相手が見えず、長期戦になる。ずるずる続けば長崎だけでなく、日本全体の問題になる」
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