最新記事

新型コロナウイルス

コロナ危機:専門家への信頼が崩れるとき

Crisis Communication In Crisis

2020年5月5日(火)14時00分
石戸諭(ノンフィクションライター)

国民の行動は明らかに変容した。翻って、専門家や政治家はどうなのか(東京、4月25日) KIM KYUNG HOONSーREUTERS

<今、必要なのはクライシス・コミュニケーションだ。だが日本の専門家や政治家は「密」を続け、自らが手本になれていない。彼らのコミュニケーション能力こそが危機的だ>

「新型コロナウイルスが流行する今、平時のリスク・コミュニケーションは必要ない。危機時のクライシス・コミュニケーションが必要なのに、日本政府や専門家の情報発信はあまりに悠長だ」。

こう話すのは、リスク管理コンサルタントの西澤真理子だ。西澤はイギリス、ドイツでリスク・コミュニケーションを学び、帰国後は大手食品企業やIAEA(国際原子力機関)などでアドバイザーを務めた経歴を持つ、「リスクの伝え方」の専門家である。

彼女とコンタクトを取ったのには理由があった。もう10年以上の付き合いになるが、彼女が「平時ではない」と言った危機は過去に1つしかない。2011年3月11日の東日本大震災、福島第一原発事故の直後だ。

当時よく議論したのが、科学者や政治家の立ち振る舞いだった。彼女がアドバイザーを務めていた福島県飯舘村で、私が取材した人たちがこぞって揶揄していたのが「視察」だった。

「一緒に考えてほしいのに、専門家の意見だけ聞かされて終わる」──。信頼される専門家とそうではない専門家の違いはどこにあるのか。

当時、私がたどり着いた解は「科学的に正しいことを言っている否か」ではない。それは大前提で、自ら行動し、住民と悩みを共有し、共に考えるプロセスを大切にできること。危機であればあるほど、専門家の行動が信頼の判断基準になる。

クライシスを意識したコミュニケーションができていない──。西澤の指摘を実感する光景が目の前に広がっていた。初の緊急事態宣言が出された、4月前半のことだ。

日本の対策の要としてメディアで発信を続ける専門家、現場の最前線で新型コロナウイルスの患者を診る医師、安倍政権に科学的な側面からアドバイスする感染症専門家が都内に一堂に集まる機会があった。非公式な場だが、私のような記者もオンラインで会場の様子を見ることができた。

そこで繰り広げられていたのは、およそ広いとは言えない会議室で、2メートルは絶対にない距離で密接して座り、マスクを外した要職者が声を張り上げて自説を述べたり、大きな声で笑ったりする姿だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ関税が市場直撃、トリプル高から一転 株と為

ワールド

トランプ氏、不法移民の流入阻止で大統領令 国家非常

ビジネス

午前の日経平均は続伸、トランプ関税めぐり乱高下

ワールド

原油先物は下落、トランプ氏のエネ非常事態宣言や関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブーイングと擁護の声...「PR目的」「キャサリン妃なら非難されない」
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 7
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    台湾侵攻にうってつけのバージ(艀)建造が露見、「…
  • 10
    身元特定を避け「顔の近くに手榴弾を...」北朝鮮兵士…
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中