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休業補償、中国の場合

2020年5月1日(金)13時24分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

しかしその後コロナが世界に蔓延し、アメリカの絶望的なまでの感染爆発を見るにつけて(外務省資料参照)、「中国は人民戦疫(戦役をもじって戦疫)に勝利したのだ」という「高揚感」さえ漂い、習近平は一極集中を強化している。

中央テレビ局CCTVでは、「いかに社会主義体制が優秀であるか」と日夜高らかに叫び、医療支援外交で中国に追随する130ヵ国ほどの国々からの習近平絶賛メッセージを報道し続けている(実際は少なからぬ国に対して礼賛メッセージを強要している。その中には日本からのメッセージも含まれていることを見逃してはいけない)。

このままではコロナ禍が去ったアフターコロナの国際社会で、中国が新秩序形成のリーダーになっていく危険性さえ秘めている。米中のパワーバランスに関して影響を与える可能性を否定できないのである。

なぜアメリカの感染者がこんなにまで爆発的に激増していくのか、それは別途解き明かしていかなければならない宿題だが、問題はその同盟国であるわが日本。

なぜここまで危機管理に弱いのか。

コロナ禍は日本の危機管理体制の絶望的な欠落を露呈してしまった。

何もかも後手後手に回り、右往左往しながら今になってようやく休業補償問題を論じているが(本日4月28日も国会で審議)、PCR検査の不備(保健所は医療制度改革により1994年の847ヵ所から2019年の472ヵ所にまで半減)、医療現場崩壊の危険性(安倍首相は再三再四にわたり過剰なベッド数の削減など指示をはじめ、カビだらけで回収さえ始めているアベノマスクは世界の嘲笑の対象となっている。

これらはやがて「国力」として現れ、日本のマイナス点となって大きな禍根を国際社会に残していくだろう。

危機管理体制は何も軍事力だけの問題ではない。こういった衛生面における危機管理は、まさに国家の「安全保障」の問題だ。

安倍政権には猛省を求める。

 (このコラムは中国問題グローバル研究所のウェブサイトから転載した。)
 
 Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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