最新記事

新型コロナウイルス

中国版CDC、武漢の生鮮市場はウイルスの「被害者」?

Wuhan Seafood Market Was 'Victim' of Coronavirus, Says Chinese CDC director

2020年5月28日(木)15時00分
アリストス・ジョージャウ

高主任は1月には武漢の生鮮市場がウイルスの発生源だとしていたが Jason Lee-REUTERS

<新型コロナウイルスの発生源をめぐってアメリカのトランプ大統領と激しく対立する中、中国の当局者が前言を翻した理由は?>

新型コロナウイルスの発生源とされてきた生鮮市場は、むしろ同ウイルスの「被害者」に近い──中国疾病対策センター(CCDCP)の主任がこう発言し、注目を集めている。

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)を最初に発症した患者の多くは、中国・湖北省の武漢市にあって野生動物も売買する華南海鮮市場とつながりがあったことが確認されている。だがその後の調査を受けて、同ウイルスが最初に動物からヒトに感染したのが本当にこの市場かどうかについて、疑問視する見方も出ていた。

中国共産党機関紙系のオンライン紙である環球時報によれば、CCDCPの高福主任は5月25日に次のように発言した。「我々は最初、ウイルスの発生源は武漢の華南海鮮市場だろうと推測した。だが今考えれば、同市場はむしろ被害者なのかもしれない。新型コロナウイルスは、そのずっと前から存在していた」

高は1月、新型コロナウイルスは武漢の市場で違法に売られていた野生動物からヒトに感染したと言っていた。だが彼によれば、1月初旬に同市場で採取した検体を調べたところ、下水などの周辺環境からはウイルスが検出されたものの、動物にはウイルスの痕跡が見当たらなかったという。

同ウイルスの発生源は今もはっきり分かっていないが、現在調査が行われており、解明にはもうしばらく時間がかかると高は説明した。

最初の患者は市場との接点なし

武漢は新型コロナウイルスの感染例が最初に報告された場所だが、だからといって感染拡大がここから始まったとは限らない。これまでに見つかった証拠からは、ウイルスがもともとの宿主であるコウモリから、ウイルスを媒介する別の動物(中間宿主)を介してヒトに移ったことが示唆されている。どの動物がウイルスを媒介したのか、どこで最初にヒトに移ったのかは、今も分かっていない。

また1月2日までに新型コロナウイルスの感染が確認されて入院した41人の患者を調べたところ、27人は武漢の海鮮市場と直接のつながりが確認されたが、同市場とつながりのない人も無視できない数にのぼった。

この調査結果は、中国の研究者たちが1月下旬に英医学誌のランセットに発表したものだ。それによれば、2019年12月1日に発症した最初の患者には同市場との接点がなかった。さらに、「最初の患者とその後の患者の間には、疫学的なつながりが確認されなかった」という。

この結果は、「新型コロナウイルスが武漢の生鮮市場で大勢の人に移る前から、誰にも気づかれずにヒトの間で広まっていたかもしれない」という説が妥当なものであることを意味する。

それでもオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の免疫学者であるミシェル・ベーカーは、英ガーディアン紙に対して、「武漢の市場とウイルスの間には何らかのつながりがあり、同市場を訪れた複数の人が感染している」と語った。「異なる複数の種の動物が触れ合うこうした生鮮市場は、問題だと指摘されている」

<参考記事>「新型ウイルスは実験室で生まれた可能性もある」とする論文が登場
<参考記事>新型コロナウイルスの「0号患者」を探せ!

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

WHO再加盟検討も、トランプ氏が集会で言及

ワールド

トランプ氏、政府機関の監察総監を一斉に解任 法律違

ビジネス

トランプ氏、TikTok買収で複数人と交渉 30日

ワールド

北朝鮮、25日に戦略巡航ミサイルの発射実験 対米強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 2
    軍艦島の「炭鉱夫は家賃ゼロで給与は約4倍」 それでも劣悪な労働環境でストライキ頻発、殺人事件も...
  • 3
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 4
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 5
    電気ショックの餌食に...作戦拒否のロシア兵をテーザ…
  • 6
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 7
    ネコも食べない食害魚は「おいしく」人間が食べる...…
  • 8
    「自由に生きたかった」アルミ缶を売り、生計を立て…
  • 9
    「ハイヒールを履いた独裁者」メーガン妃による新た…
  • 10
    「後継者誕生?」バロン・トランプ氏、父の就任式で…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 6
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 7
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 8
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 6
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 7
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中