年収2000万円超から除染作業員へ、この下級国民の話は「すべて真実」
貧困、疾病、災害、差別――ずっと日本は平和ではなかった
東北をあとにした赤松さんは、東京で風俗店の呼び込みやスーパーの品出し、コンビニ店員やファミレスのキッチン、バスの誘導員などを経験した。その時のことも書きたかったのだが、「とても1冊に収まりきらなかった」と笑う。
いつか東京編で書こうと思っているんですけど、私ね、「自己責任」って言葉がホンマ嫌いなんです。でも日本人はあの言葉、すっごい好きですよね。あれは自由主義とセットで出てきた言葉で、なぜか相対的貧困にいる人ほど自己責任って言葉が好きなんです。
私、東北にいた頃に穿孔性虫垂炎になったんですけど、東京に戻ってからある時、異様にお腹が膨れてきたんです。レントゲンを取ったら「腹膜が破けていて、ヘルニアでお腹がポッコリしている」と言われて。その時はおっパブの店員をしていたのですが、「手術のために休まないとならなくなるかも」と言ったら「だったら代わりの人間を連れて来い。自己責任だ」と返された。おっパブの店長ですら、「自己責任」を常套句にしていました。
でもそろそろ多くの人が、おかしいことに気づき始めてきたと思います。だってオリンピックなんてとっくに無理なことが分かっていたはずなのに、ずっとやるやると言っていた。その一方で「コロナウイルスのオーバーシュートが間近です」とも言っていて。この2つが同時に成立するわけがないですから。
新型コロナウイルスによって平和な日常が奪われた、世界が変わってしまった。こんな声も聞かれるが、赤松さんは「ずっと以前から日本は、全然平和ではなかった」と感じている。
そもそも平和って何なのか、何兆円もかけて軍備増強することで平和になれるのか。果たして今の日本が平和なのか。よく戦争の対極にあるものが平和だと言われますが、混乱の対極にあるものが平和です。
平和を乱すものは戦争だけではなくて、貧困や疾病、災害、差別などたくさんあります。そう考えると、日本はずっと平和ではなかった。だから今、日本を見ながらハッピーエンドが書けるなんて奴は、嘘だと思うんです。
しかし、『下級国民A』と同時期に出版した小説の『アウターライズ』(中央公論新社)は、唯一「カタルシスが得られる」作品になっている。それは「アンチテーゼとして書いた、いわばSF」だからだ。
『アウターライズ』は、今の日本と全く対極の国が生まれるというのがテーマです。医療と住宅費がタダでベーシックインカムを導入し、武装放棄をする仮想国家を書いています。
今回タイトルに「国民」という言葉を使ったのは、これを書いた時点では日本にまだ少し期待があったから。でもそれももうなくなった気がします。日本は今のままでは誰1人として幸せにならないけれど、私としては書くことを続けていくしかない。この社会の中で自分にできることは、発信し続けることだと思っています。
『下級国民A』
赤松利市 著
CCCメディアハウス
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