「検査と隔離」もウイルス第2波は止められない 米専門家
Contact Tracing Won't Solve the Coronavirus Crisis: Epidemiologist
この夏どこまで健康リスクを取るかは個人の覚悟次第、とオスターホルムは警告する Ca-ssis/iStock
<呼吸器を冒す病原体は数カ月~数年は止まらないと、疫学の第一人者でミネソタ大学感染症研究・政策センターのオスターホルム所長に聞くパンデミックの次なる段階>
夏の訪れを知らせるメモリアルデー(戦没者記念日)の休日、「日常」に戻りたいというアメリカ人の想いはピークに達した。米国内各地では新型コロナウイルス対策の様々な制限が緩和され始め、メイン州ではキャンプ場の営業再開が許可された。ニューヨーク市はビーチの開放を検討中で、フロリダ州では青少年の活動全般を解禁した。
アメリカをはじめ各国は、アフター・コロナの新しく不確実な段階に突入しつつある。厳しいソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保戦略)が導入されたことで、ニューヨークやイタリア、イギリスなど感染拡大が最も深刻だった地域では、新たな感染者の数は何とか抑え込んだ。今後の課題は、再び感染爆発が起来て医療システムが崩壊するのを防ぎつつ、いかにして人々の暮らしと精神面の健康を守っていくか、ということだ。
ところが、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)で疲弊しきった国の活動をどうやって再開していくかについての「総意」は、まだどこにも存在しない。政治家と公衆衛生の専門家たちの考え方は違う。専門家の中でも、際立った2つ意見が対立している。一方は、感染者と接触した可能性がある全ての人を追跡し、14日間の自主隔離を求めるという大規模な接触追跡(コンタクト・トレーシング)を行うべきだという。もう一方は、接触追跡では現実的にウイルスを止めるのは難しいという。アメリカのように、他人に詮索されたり指図を受けたりするのを嫌う人が多い国ではとくに難しい、というのだ(実際、アメリカではまだ絶対にマスクはしないと抵抗する人々もいる)。
<参考記事>マスク着用を拒否する、銃社会アメリカの西部劇カルチャー
政府の責任から個人責任へ
新型コロナウイルスから国民の身を守るのは、これまで「政府責任」だった。だがウイルス対策の各種制限が緩和され、経済活動が再開されるこれからは、ウイルスから身を守るのもいわば「個人責任」だ。われわれはウイルス対策について何の確証ももたないまま、新たな段階に足を踏み入れようとしている。
アメリカでは、COVID-19で死亡するリスクが高い高齢もしくは基礎疾患がある国民が全体の約40%にのぼる。彼らやその近親者が、自らどこまで感染リスクを冒す覚悟なのか、今年の夏はその判断が問われることになるだろう。
ミネソタ大学感染症研究・政策センター所長で疫学の第一人者のオスターホルムはこう語る。「飲酒運転にたとえるなら、取り締まりは政府がやるべきだ。だが私たち国民の側にも、自分の行動に責任を持ち、酒を飲んだら運転しないようにする責務はある」
オスターホルムは、新型コロナウイルスがパンデミック(世界的大流行)を引き起こし、都市部に最も大きな打撃をもたらすだろうと、早い段階から警鐘を鳴らしていた。だがこの先は、きわめて不透明な要素が多いと言う。新型コロナウイルスは、一般的な風邪を引き起こすのと同じコロナウイルスの一種だが、今回のパンデミックを見ていると、急速に感染拡大し、発症すると急激に症状のピークを迎えるなど、特徴がインフルエンザに近い。夏に向けて、このウイルスがどのような特徴を見せるのかは誰にもわからない。