ネットの「送料無料」表記に「存在を消されたようだ」と悲しむ人たちがいる
交通ルールを守っていた歩行者を轢いて死亡させても逮捕されない暴走ドライバーがいるのに対し、トラックドライバーは安全運転していても、突如現れたサイクリストや自殺志願者など、回避できない対象を轢くと、「交通強者」であるという理由から、現行犯逮捕された挙句、高確率で実名報道される。
昨今巷を賑わす「上級国民」という言葉を耳にするたび、トラックドライバーは、世間以上にその"違い"を深く考えさせられるのだ。(98〜99ページより)
このように理不尽な扱いが少なくないことも、トラックドライバーが「底辺職」だとされる一因なのかもしれない。しかし、そんな中にも自らの仕事を「天職」であると誇り、愚痴をこぼしながらも生き生きと走り続けるドライバーが数多く存在することも、ぜひ分かってほしいと著者は訴える。
彼らがトラックを降りないのは、「仕方がないから」でも「他に職がないから」でもなく、「トラックドライバーという職が心底好きだから」にほかならないのだ。
にもかかわらず、そんな仕事を外側の人間が否定したり、侮辱したりすることはやはりフェアではないだろう。
日本の貨物輸送の9割以上を担うトラックは、「国の血液」によく例えられる。そうならば「道路」は、「国」という「体」の隅々に張り巡らされた「血管」で、「荷物」はその血液が血管を通して運ぶ「栄養」といったところだろう。(「まえがき」より)
著者のこの言葉を引き合いに出すまでもなく、現代生活におけるトラックの役割は大きい。ましてや新型コロナウイルスの流行によって多くの人が移動を制限されている状況下においては、貨物輸送なくして生活は成り立たないと言っても過言ではない。
そんな時期だからこそなおさら、本書を通じてトラックドライバーの存在の大きさを知るべきではないだろうか。そうすれば自然に、彼らに感謝できるに違いない。
『トラックドライバーにも言わせて』
橋本愛喜 著
新潮新書
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。
2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。