最新記事

米中関係

ミズーリ州が新型コロナ被害で中国を提訴した深い理由

Missouri Opens Up a New Front Against China in Coronavirus Blame Game

2020年4月27日(月)19時20分
キース・ジョンソン

だが、外国政府もしくは外国の政府機関を相手取った訴訟を起こしたところで、すぐに壁に当たる。その大きな理由が、外国主権免除法(FSIA)で、アメリカの裁判所で外国政府の法的責任を問うことを制限する法律だ。

中国外務省はミズーリ州の起こした裁判について、「ばかばかしい」「笑い者になるだけだ」と一蹴した。アメリカの裁判所で中国の政府機関に対する裁判を進めようとしても難しいというのが、中国政府の見方だ。

ミズーリ州は今回、中国を相手取った訴訟を難しくしている根本的な問題を解決するのではなく、それを迂回するための苦肉の策を編み出した。中国の微生物研究所による「商業的」な活動は主権免除の対象にはならないとか、感染拡大による経済的被害については損害賠償請求が可能だといった主張を行ったのだ。

だが法律の専門家らによれば、同じように中国に損害賠償を求める一部の集団訴訟よりはましとは言え、こうした主張が論拠として弱いのは否めない。たしかにアメリカ国内における外国による商業活動はFSIAの対象外であり、それが大きな損害をもたらした場合には賠償請求することは可能だ。だが中国国内の政府系研究所がウイルスを放ったとか、中国政府が当初、新型コロナウイルスの感染例を隠ぺいしたとかいった訴状にあるような主張を商業活動と言うのは無理がある。

中国での不法行為は対象にならず

「商業活動は主権免除の対象にはならないという議論はもっともらしく聞こえるが、アメリカ国内で商業活動が行われていなければ話にならない」と語るのはタフツ大学大学院のジョエル・トラクトマン教授(国際法)だ。「言われているような中国政府による政府としての怠慢がどの程度商業活動に当たるかは難しいところだ」

また、FSIAの対象外である根拠としてパンデミックによる経済損失(訴状ではミズーリ州での失業率の急激な悪化が挙げられている)の責任が中国にあると主張するのも、同様に難しい。経済的な損失とその損失をもたらした行為の両方がアメリカ国内で発生していなければならないというのが過去の大半の判例だからだ。

「(損害をもたらした)行為が武漢ではなくミズーリ州内で行われていなければだめだ」と、バンダービルト大学法科大学院のイングリッド・ワース教授(国際法)は言う。

もっとも、ミズーリ州の訴訟が目指すのは司法の場で白黒付けることと言うよりは、中国を相手取った訴訟を容易にする法整備に向けた地ならしかも知れないとワースは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国務長官と中東担当特使が訪欧、17日に米仏外相会

ビジネス

米3月小売売上高1.4%増、約2年ぶり大幅増 関税

ワールド

19日の米・イラン核協議、開催地がローマに変更 イ

ビジネス

米3月の製造業生産0.3%上昇、伸び鈍化 関税措置
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 9
    あまりの近さにネット唖然...ハイイログマを「超至近…
  • 10
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 10
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中