ミズーリ州が新型コロナ被害で中国を提訴した深い理由
Missouri Opens Up a New Front Against China in Coronavirus Blame Game
だが、外国政府もしくは外国の政府機関を相手取った訴訟を起こしたところで、すぐに壁に当たる。その大きな理由が、外国主権免除法(FSIA)で、アメリカの裁判所で外国政府の法的責任を問うことを制限する法律だ。
中国外務省はミズーリ州の起こした裁判について、「ばかばかしい」「笑い者になるだけだ」と一蹴した。アメリカの裁判所で中国の政府機関に対する裁判を進めようとしても難しいというのが、中国政府の見方だ。
ミズーリ州は今回、中国を相手取った訴訟を難しくしている根本的な問題を解決するのではなく、それを迂回するための苦肉の策を編み出した。中国の微生物研究所による「商業的」な活動は主権免除の対象にはならないとか、感染拡大による経済的被害については損害賠償請求が可能だといった主張を行ったのだ。
だが法律の専門家らによれば、同じように中国に損害賠償を求める一部の集団訴訟よりはましとは言え、こうした主張が論拠として弱いのは否めない。たしかにアメリカ国内における外国による商業活動はFSIAの対象外であり、それが大きな損害をもたらした場合には賠償請求することは可能だ。だが中国国内の政府系研究所がウイルスを放ったとか、中国政府が当初、新型コロナウイルスの感染例を隠ぺいしたとかいった訴状にあるような主張を商業活動と言うのは無理がある。
中国での不法行為は対象にならず
「商業活動は主権免除の対象にはならないという議論はもっともらしく聞こえるが、アメリカ国内で商業活動が行われていなければ話にならない」と語るのはタフツ大学大学院のジョエル・トラクトマン教授(国際法)だ。「言われているような中国政府による政府としての怠慢がどの程度商業活動に当たるかは難しいところだ」
また、FSIAの対象外である根拠としてパンデミックによる経済損失(訴状ではミズーリ州での失業率の急激な悪化が挙げられている)の責任が中国にあると主張するのも、同様に難しい。経済的な損失とその損失をもたらした行為の両方がアメリカ国内で発生していなければならないというのが過去の大半の判例だからだ。
「(損害をもたらした)行為が武漢ではなくミズーリ州内で行われていなければだめだ」と、バンダービルト大学法科大学院のイングリッド・ワース教授(国際法)は言う。
もっとも、ミズーリ州の訴訟が目指すのは司法の場で白黒付けることと言うよりは、中国を相手取った訴訟を容易にする法整備に向けた地ならしかも知れないとワースは言う。