最新記事

環境

経済成長を諦めなくても温暖化対策は進められる

Growth Can Be Green

2020年4月25日(土)17時45分
アンドリュー・マカフィー(マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院首席研究員)

フロリダ州の広大なレタス畑 MARK ELIASーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<「脱成長」は間違いだった――人口増加と経済的繁栄を達成しつつ環境問題を解決する道筋は見えている>

50年前の人たちには、地球の未来を憂えるそれなりの理由があった。成長は右肩上がりであってほしいけれど、どう考えても地球の資源には限りがあり、しかも人為的な汚染によって毒されていたからだ。

しかし今は違う。この半世紀で人類は、その数と富を増やしつつも地球をいたわり、守ることに成功してきた。もちろんまだたくさんの問題が残っている。その最たるものは地球温暖化だが、幸いにして私たちはもう難関を乗り越える道筋を見つけている。ただし残念なことに、その道筋を正しくたどっているとは言い難い。もっと前を向いて進まなくてはいけない。もっと賢くなって問題を解決していく必要がある。

50年前、人々は4月22日をアースデイ(地球の日)と定め、この星を守るにはどうすればいいかを考え始めた。20世紀、とりわけ第2次大戦後の20年間、地球上の人口は未曽有のスピードで増え続け、世界経済はそれをも上回る速度で成長を遂げ、多くの人の暮らしがよくなった。しかし急成長には3つの不幸な副作用があった。避け難く、しかも恐ろしい副作用だ。

1つは、資源の使い過ぎ。例えば50年前のアメリカでは、アルミや化学肥料などの消費量が経済成長を上回るペースで増えていた。資源には限りがあるから、いずれは使い果たしてしまう。1972年にはマサチューセッツ工科大学(MIT)のドネラ・メドウズらが有名な報告書『成長の限界』で、「現在のシステムに大きな変化がないと仮定すれば」という条件付きながら、資源の枯渇によって21世紀中には「人口の増加も経済成長も止まってしまうだろう」と警鐘を鳴らした。

2つ目は、環境汚染。空気も水も大地も、どんどん汚されていた。アメリカでは1940年以降の30年間で、大気中の二酸化硫黄濃度が60%以上も増加していた。当時のライフ誌には「あと10年もすれば都会で暮らすにはガスマスクが必要になり......1985年頃には大気汚染のせいで地球に届く太陽の光が半分に減っているだろう」という科学者たちの予想が掲載されていた。

3つ目は、種の絶滅。産業革命以来、アメリカバイソンからシロナガスクジラまでのさまざまな動物が絶滅の危機に瀕してきた。このままいけばもっと多くの動物が姿を消すと懸念された。だからアースデイの提唱者ゲイロード・ネルソン上院議員(当時)は70年に、こう警告した。「いま生きている動物の種の75%ないし80%が、25年以内に絶滅する恐れがある」と。

こうした深刻な副作用を止めるにはどうすればいいか。ともかく成長を止めるしかないだろうと、当時は思えた。つまり「脱成長」である。地球を壊すわけにはいかないから、ともかく人口の増加も経済成長も止めよう。それが50年前のアースデイから生まれた思想だった。

必要に思えた「脱成長」

脱成長は容易でないし、みんなが望むことでもなかったが、それでも必要に思えた。哲学者のアンドレ・ゴルツは75年に書いている。「大切なのは消費を増やさないことではなく、消費量をもっともっと減らすことだ。ほかに方法はない」

しかし誰も、どの国も社会も脱成長を受け入れなかった。この事実は何度でも強調しておきたい。第1回アースデイのあった70年以降、世界経済と人口の成長ペースが少し落ちた時期があったのは事実だ。しかしそれは戦後の25年間が復興期で、各国の経済がものすごいスピードで拡大していたから。この特別な時期を除けば、70年以降の世界経済と人口の成長率は人類史上最速のペースだった。脱成長どころではない。

成長に伴う3つの悪しき副作用はどうなったか。資源の枯渇と環境汚染、そして種の喪失の3つだ。人口と富の増加につれて、これら副作用も増大しただろうか。

とんでもない。意外や意外、われら人類はこの50年間で、その数と富を増やしながらも地球への負荷を減らすすべを見いだした。この変化は最初、豊かな先進諸国で起きたが、やがて世界中に広まった。

ほとんど誰も想定していなかった展開だ。今でもたいていの人は気付いていないが、人類の繁栄は自然の犠牲の上に成り立つという非情な法則は揺らぎ始めている。本当だ。嘘だと思うなら、3つの副作用の現在を検証してみよう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ

ワールド

米、ロシアが和平合意ならエネルギー部門への制裁緩和

ワールド

トランプ米政権、コロンビア大への助成金を中止 反ユ

ワールド

ミャンマー軍事政権、2025年12月―26年1月に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 3
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMARS攻撃で訓練中の兵士を「一掃」する衝撃映像を公開
  • 4
    同盟国にも牙を剥くトランプ大統領が日本には甘い4つ…
  • 5
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 10
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 8
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 9
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中