モスク乱射事件から1年、ニュージーランドで薄れゆく銃規制への熱意
Recoiling from Gun Control
ニュージーランドのハミルトンにあるワイカト大学国際法学部のアレクサンダー・ギレスピー教授によれば、クライストチャーチ事件直後の法改正が「極めて迅速に成立した」のは「ニュージーランドであれほどの大量殺人が起きたのは前代未聞で、当時はまさに非常時だった」からだ。
実際、そのスピード感は高く評価された。ニュージーランドの調査会社コールマー・ブラントンによれば、昨年4月の世論調査では国民の61%が新しい銃規制法に賛成し、これでも不十分だとする回答も19%あった。
「あの乱射事件の犠牲者は、ニュージーランドの基準ではもちろん、国際基準で見てもあまりに多かった。あれだけのことが起きたのだから、迅速な対応が適切だった」と、ギレスピーは言う。
銃の買い取りを実行できたのも規制派に追い風が吹いていたからだと、全国警察協会のクリス・カーヒルは言う。昨年12月20日の期限までに警察が各地で開いた買い取りイベントは約600回、投じた資金は約70億円だ。
全部で「5万6000丁を回収し、さらに最も危険なタイプの約3000丁を改造し(て攻撃性を減らし)た。大半は半自動のアサルトライフルだった」と、カーヒルは言う。「これでニュージーランドが今までより安全になったのは間違いない。まだ世間にどれだけ残っているかは議論の分かれるところだが」
法改正で禁じられた危険な銃が、今も民間人の家に「どれだけ残っているか」は不明だ。昨年、政府の委託でコンサルティング会社KPMGが調査したところでも、個人が違法に所有している銃の数は少なくとも5万丁、多ければ17万丁とされている。
政府の銃買い取りプランにも異論があった。ニュージーランドには銃を合法的に所有している人が25万人ほどいるが、彼らの利益を代表するロビー団体「認可銃器所有者協議会(COLFO)」は、銃の回収に当たって政府が十分な補償をせず、合法的に銃を所有している人まで悪者扱いした、と抗議している。
「回収期限の3週間前まで、政府は禁止対象の品目を追加し続けた。しかしその詳しい情報を周知徹底しなかった。そのため、禁止されたのを知らずに、違法となった銃や部品を今も持っている人は多いはずだ」と不満を漏らしたのは、COLFOの広報を担当するニコール・マッキー。「COLFOとて規制に反対するものではないが、正しい結果につながる有効な改革にしてもらいたい」とも言う。